人間ざかりは百五歳…大西良慶・平櫛田中著
1979年に刊行された同名の書籍が約半世紀を経て復刊された。京都・清水寺の貫主を務め「社会のための仏教」に精力的に取り組んだ大西良慶氏と、木彫彫刻家で文化勲章も受章している平櫛田中氏が著したエッセー集で、執筆当時、それぞれ数え年で105歳と108歳だった。100歳を超える長寿なればこその、まさにタイトル通りの「人間ざかり」を文章から感じさせてくれる。
大西氏の説法は「良慶節」と称されて親しまれ、多くの人々が集まったという。説法もきっとそうだったのだろうと思わされるような筆致で、自由闊達かつ縦横無尽に「いま、ここを生きる」ための仏教的な生き方や智慧を読者に語り掛けてくる。平櫛氏は、作品を制作していく上で大きな影響を受けた岡倉天心と臨済宗僧侶の西山禾山の教えなどに触れながら「彫刻一路」の人生を振り返り、人生の苦しみやその末に至った境涯を示す。
大西氏は「人間の理解では、死をもって人生の完結とするが、仏教では、そうではない。つまり、人間は本当は死なないのである」と説き、平櫛氏も「『死』が人生の完成を意味するものでは決してないことを認識しなければならない」と訴える。今なお、物質的な終焉としての「死」を感じさせない両者の語り口から「生」を考えさせられる一冊。
定価1980円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。