〈聖なるもの〉を撮る 宗教学者と写真家による共創と対話…港千尋・平藤喜久子編
宗教学者と写真家。異なる視点で「聖なるもの」と向き合う14人の執筆者が、宗教学において写真というメディアが果たした役割や、観光産業の発展と共に変化する聖地の在り方など様々なテーマで「聖なるもの」を撮るということについて考察する。カメラという装置、写真を撮るという行為、それをつかさどる人々の意識を起点に「聖なるもの」とは何かという宗教学の本質的な問いに迫る。
神話学者の平藤喜久子・國學院大教授は「光=太陽」を切り口に、出雲、日向、対馬、ギリシャなど神話の舞台となっている土地の風景について考察する。写真を撮影するとき、我々は普段以上に光を意識する。光を生み出すのは太陽であり、太陽は、世界各地で最高神の位置を占める信仰対象だ。それぞれの場の光の特性と神話の特徴に関する問題提起は、ファインダーを通して聖地を見つめる執筆者ならではの視点といえる。
歴代の天皇陵を全て撮影した写真家の伊奈英次氏は、強大なタブーが存在する天皇の陵墓を撮影する際の「漠然とした恐れ」から「聖なるもの」の核心に肉薄する。一方、宗教社会学者の山中弘・筑波大名誉教授は、写真や映像などを通して聖母出現の物語を積極的にアピールしたフランス・ルルドをテーマに、近代における聖地観の変化を解説する。
定価2750円、山川出版社(電話03・3293・8131)刊。