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パリ・ノートルダムの火災から4年 再建に関わる姿の映像美

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2023年4月19日 10時25分

2019年4月15日にパリのノートルダム大聖堂が炎上してから4年になる。当日は、ミサが行なわれていた夕刻に、修復中の尖塔基部周辺の足場から出火し、尖塔と屋根が焼け落ちた。火は翌日未明に消し止められ、犠牲者も出なかった。マクロン大統領は消防隊の活躍を褒め称える一方、5年以内の再建を宣言し、「より一層美しく建て直そう」と呼びかけた。

だが、グローバル企業からの寄付金を当て込み、国際コンペで案を募り、24年のパリ・オリンピックでのお披露目を意識したこの新自由主義的な再建計画は不評を買い、火災前の外観を忠実に復元する方向に落ち着いた。また、個人単位の少額の寄付を推奨する方向での法整備がなされた。現在は、24年12月の一般公開再開を目指して修復再建作業が続けられている。

ジャン=ジャック・アノー監督の「ノートルダム 炎の大聖堂」は4月7日に日本でも封切りとなり、早速映画館に観に出かけた。観光客の視点、聖職者や信者の視点、警備員や職員の視点、パリ市民や政治家の視点、そして消防隊の視点から、あの日の現場が再現されている。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、この火災には事実にフィクションの要素が詰まっている。再現率98%との触れ込みに違わず、メロドラマ風の脚色は極力抑制され、リアリズムのなかにドラマと映像美がある。

映画に登場する宗教事象には、聖職者の挙げるミサ、火災から救われる「いばらの冠」、讃美歌を歌う人びと、そして大聖堂そのものがある。だが、熱さも匂いも感じさせずもっぱら視覚と聴覚に訴えるスクリーン越しということもあるのか、映画が描く燃え盛る大聖堂は恐ろしいと同時に美しい。瓦礫と過酷な放水作業も、凄惨だが美しい。消防隊も英雄であると同時に聖人のように見えてくる。あたかも中世の名もなき石工たちがこの大聖堂の建築に尽くしたかのように、慎ましやかで勇気ある消防隊も現代的なやり方で大聖堂の歴史に参与している。

映画パンフレットの監督インタビューによれば、この作品の制作にいわゆる信仰心は必要なかったが、「シネマへの信念」は必要だったとのこと。寺院や教会やモスクで、信仰の神秘的な部分や礼拝の静けさに触れるのは好きだという。

火災後、フランスの建築史・美術史・考古学の研究者を中心に、修復再建に関する学術連盟が立ちあげられ、ウェブサイトで学術記事が公開されている。これを日本語に翻訳するプロジェクトもウェブ上で展開している。今年3月には、ノートルダム建設開始初期の1160年代に早くも石材の補強に鉄が使われていたことが判明し、日本語翻訳チームのフェイスブックもこの情報を報じている。

翻訳プロジェクトメンバーの坂野正則氏の編著『パリ・ノートル=ダム大聖堂の伝統と再生――歴史・信仰・空間から考える』(勉誠出版、2021年)には学ぶことが多い。同書で「教会は、火災による痛手を代償に連帯という果てしない飛躍へと向かう力を得た」と語る神学者クリスチャンヌ・ウルティックの「脆さは対話の支障にはならない、その逆なのである」という言葉に感銘を受けた。

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