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2024宗教文化講座

さらされる宗教界の暗部 求められる当事者の自浄作用

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2023年5月17日 14時42分

産経新聞が今年に入ってから、宗教法人法の制度の緩さが生み出した諸問題を考えるとして「宗教法人法を問う」という連載を続けている。「毎年提出が義務づけられる報告書類1万5千以上未提出」「法人売買」「不活動宗教法人」「脱税やマネーロンダリング」「暴力団の介入」など、宗教法人の暗部を語る文言が並ぶ。連載の背景には統一教会問題があることは間違いない。1995年のオウム真理教地下鉄サリン事件を機に、宗教法人法が見直されたのと同様、宗教界にとっては厳しい内容であろう。

連載を見ていて、いくつか思い出したことがあった。一つは弘文堂から90年に刊行された『新宗教事典』の資料編で教団調査のお手伝いをさせていただいた時のことだ。東京都の法人名簿や電話帳をもとに作成された名簿から、1日に5教団くらいを回るのだが、面談できたのは1、2教団だった。門前払いはいい方で、登記された所在地に教団がなかったり、明らかに休眠、さらに別の業種であったりもした。

もう一つは、当時、宗門系の大学に学んでいたが、僧籍を持つ学友が「実家に来た」と言って、兼務寺の処分を請け負う業者からのFAXを見せてくれたことがあった。要するに法人売買で、確か5千万円だったように記憶している。

両方とも宗教研究を志す大学院生には刺激の強い出来事だったが、宗教界に不信感を抱くことはなかった。時代はバブル期で、地上げなどと並んで宗教法人を巡る不祥事があげつらわれていた。そんな風潮を描いた「マルサの女2」が88年に公開され、大ヒットした。「宗教は儲かるんだろう」という戯言に、地方寺院出身の友人たちは、親は兼業、過疎化で法事も減少し、高齢化で自分が還る頃まで寺が存続するかどうかと苛立ちまじりに語ったのを覚えている。産経新聞の連載は宗教界の一部のことだと言う気はないが、零細企業や3ちゃん農業のようなすそ野が広がっていることにも目をやりたい。

5月連休中の連載の記事は、無資格「僧侶」のにわか仕立て葬儀の内部告発だ。実はこれにも思い出がある。渋谷のホテルで結婚式の司式の牧師とエレベーターで一緒になったら、当時習っていた英会話の先生だった。後で聞いたら資格もなければ、宣教団とは名ばかりの有限会社から、コーラス隊やオルガン奏者などとともに派遣されるという。産経新聞は、この連載に読者から情報を募集していて、今後、こうした内部情報が続くのだろう。ただなりすまし宗教者問題は、葬儀にせよ、結婚式にせよ、宗教行事や宗教者との関わりに私たちが普段から少し意識を向けていれば防げるような気もする。

もちろん宗教法人を利用しての犯罪には厳しい取り締まりが必要だ。その上で付け込まれない教団側の自浄作用や宗教界挙げての取り組みに期待したい。言うまでもなく、宗教は私たちの生活に深く関わってきたし、今後もそうだろう。宗教法人を巡る諸問題に、私たちは時に「消費者」として宗教界にも、そして自らにも厳しい目を持ちつつ、時に関わりのある「当事者」として宗教界の健全な成長にも心砕いていきたい。

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