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「原発ゼロ社会への道」― 宗教的観点から考え、討議深めたい(1/2ページ)

上智大教授 島薗進氏

2014年6月4日

原子力市民委員会が『原発ゼロ社会への道――市民がつくる脱原子力政策大綱』を公表した。原発が倫理的に受け入れがたいものであり、原発ゼロ社会が現実的な選択肢であることを示し、その選択にそって必要な法的・政治的措置を丁寧に示していこうとしたものだ。現在、インターネットで「原子力市民委員会」と打ち込んで検索すると、すぐにこの「脱原子力政策大綱」が閲覧でき、ダウンロードもできるようになっている。

この文書を作成した原子力市民委員会は、科学者・研究者、市民、ジャーナリスト、弁護士らが加わり、11人の委員、22人のアドバイザーらによって構成されている。座長は舩橋晴俊氏(法政大教授、社会学者)、座長代理は吉岡斉氏(九州大教授・前副学長、元政府事故調委員、科学史研究者)が務め、私も委員の一人として加わっている。2013年4月に設立され、集中的な審議を重ねて同年10月に「中間報告」を公表し、それをもとに全国各地で市民・専門家との意見交換を数多く重ね、14年4月12日に「脱原子力政策大綱」の公表に至った。

翌4月13日には、東京の日本教育会館で脱原発フォーラムが行われ、840人が参加した。壇上では原子力市民委員会のメンバーの他、日本学術会議の大西隆会長、JA全中の村上光雄副会長、東海村の村上達也前村長、福島県生協連の佐藤一夫専務理事らが「脱原子力政策大綱」の意義について、またこれを踏まえた今後の課題について語り合った。東電福島原発災害の被害と復興の問題に関わって来た福島大学の若手教員や福島原発告訴団の武藤類子団長の発言はとくに聴衆の心を揺さぶった。

「脱原子力政策大綱」は長期的なエネルギー転換や放射性廃棄物の処理・処分の展望を考えれば「原発ゼロ社会」を選ぶのが妥当だとしている(第3章、第5章)。また、短期的には安全性に確かな配慮をすれば再稼働は容認できないこと、事故収束のための考え方を改めるべきこと、原発作業員の雇用形態を改め健康管理を徹底すべきこと(第2章、第4章)などを説いている。

これらは、現今の政府側や原発推進側の論や施策と比べて道義にかなっているとともに、現実的でもある判断として示されている。個々の問題は、福島原発事故後、さまざまに論じられてきたものだが、この「脱原子力政策大綱」では、それらの問題が包括的に取り上げられ、一貫した論述にまとめあげられている。

だが、そもそもなぜ原発の継続が適切でないか。それはコストや経済の問題からだけでは論じきることができない。序章「なぜ原発ゼロ社会を目指すべきなのか」では、原発がとても回復できず賠償もできないような巨大な被害を招くハイリスク事業だという難点などをあげて、法律によって廃止すべきだとしている。しかし、もっとも重要な難点として「原子力発電の倫理的欠格」をあげている。このような倫理的観点が前面に提示されるについては、日本の、また世界の宗教界からの声が一定の役割を果たしたと私は考えている。

ドイツのメルケル政権は、11年5月に「ドイツのエネルギー転換――未来のための共同事業」という報告書をまとめ、国をあげて脱原発への歩みを推し進めていくこととなった。この報告書をまとめた委員会は「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」と名づけられた。ドイツは倫理的な判断によって脱原発を決めたのだが、こうした考え方を受け入れるにあたってはドイツのキリスト教界の取り組みが大いに影響を及ぼしている。そこでは、地球環境の持続可能性と未来の世代への責任が基調をなす考え方となっている。

「脱原子力政策大綱」もこのドイツの倫理委員会の立場を支持し、「原子力過酷事故の被害規模は計量不可能なほど大きく、また生み出された放射性物質はのちのちの世代にも負担を強いるので、原子力発電は倫理的観点からは認められない」とする。そして、日本では核爆弾による惨禍を経験し、この度、また原子力過酷事故の試練に直面したから、「核技術に対して示すべき倫理的判断は、より強固かつ予防的なものであってしかるべきである」と述べている。倫理的判断を下すには歴史的経験の適切な振り返りが役立つことが多いが、「脱原子力政策大綱」もその立場をとっている。

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