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第22回「涙骨賞」を募集
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弘法大師少年の日 空海は大峯山に登っていた(2/2ページ)

奈良県立橿原考古学研究所長 菅谷文則氏

2016年1月13日
類例ない出土品も

大峯山頂での奈良時代の出土品のうち、もっとも注目すべきは、奈良三彩(表面に緑、白、褐色の釉薬をほどこした陶器)の破片であり、ガラス製の経軸端(巻物式の仏典の軸木上下に嵌め込んだ装飾品)である。奈良三彩片は、奈良時代の首都である平城京域においても、大寺と高位の貴族の邸宅のみから出土している。一種のステータスを表す陶器であった。ガラス製経軸端は、出土品は大峯山頂出土を除いて一例もない。正倉院にのみ伝えられている。

この類例のきわめて少ない出土品は、奈良時代中期に吉野から大峯山頂までの急峻な宗教の道を開いたのは、木樵でも狩人でもないことを示している。もちろん、木樵や狩人の細径を利用したことは十分に考えられる。平安時代初期、つまり9世紀初頭の吉野は、現在の吉野山から、さらに高い奥千本のあたりであったことも、出土品から確認できた。

再び、空海の上表文に戻ることにする。伝承によると、空海は大安寺僧勤操について、虚空蔵求聞持法を教えられたという。それは大学に入る前の少年の日のことであったらしい。それよりも30~40年前には、すでに大峯山への宗教の道は形成されていたのである。空海はその道をたどったと推認することは、何ら問題がないように思う。

大峯山の開山は、役小角であるとされている。江戸時代の1799年には光格天皇から、神変大菩薩の号を勅諡され、今日でも大峯を中心とする修験の修法においては、名号をいくどもいくども念じる。ただし、全国的には、役行者または、行者の名の方がよく知られている。役小角は『日本書紀』の次に勅選された『続日本紀』文武3年5月24日に衆を惑わしたという罪名で捕らえられ、伊豆に流されたと明記されている。そして、翌年になくなり仙人となり、仙界に移ったという。

山の考古学研究会

どのようにして仙人となったかについては、『日本霊異紀』に書かれているのが早い。大和の葛城山で修行したのち、吉野の金峯山に至ったことなどが、詳しく記されている。『続日本紀』は、797年にできている。『日本霊異紀』は弘仁年間の著述とされ、その時間間隔は20年に満たない。これ以後は、役小角が金峯山の開山となり、宇多上皇、藤原道長・頼道・師道らの登山修行となる。院政期の大峯登拝つまり御岳詣は、都の一大イベントとなっていた。

従前の修験研究、ひいては日本仏教史研究では、藤原道長以前の大峯山登山は、伝承の域を出ないものとされていた。大峯山の考古学・美術史研究は、昭和12年に東京帝国博物館から刊行された『金峯山経塚遺物の研究』の石田茂作、矢島恭一両氏の研究で末法思想による埋経を中心に論じられたからである。考古学では昭和40年代以前は、奈良時代と平安時代の土器の識別ができなかった。考古学が未発達であった。今日ではそうではない。わたしたちは、『山の考古学研究会』を組織して、全国各地の霊山といわれる山々の考古学研究を進めている。多くの山が、奈良時代に早くも人々が登山していたことを確認した。大峯山脈の研究はその成果の一つであった。

ふたたび空海に戻ると、空海は讃岐から上京して、仏教と出合ったのち、まもなく大峯山、当時の金嶺(かねのみたけ)に登り、木樵か狩人などの先導のもとに、西に2日間を歩き、高野山に至ったと思う。空海の上表文の前半を、考古学による大峯開山史を用いて解釈すると、上表文の「少年の日」から高野山を賜るまでが理解できる。上表文は、同時代の人の目や耳に触れるものであり、虚偽を書くことは許されなかったと考えるべきで、少年の日の吉野から高野への記事も実事としてよい。空海研究の一点を考古学から解釈したい。

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