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宗教者としての本質が問われる臨床宗教師活動(2/2ページ)

武蔵野大教授 小西達也氏

2017年12月22日

もちろん「異他ケア」は容易ではない。一般にはケアは「共感(エンパシー、Empathy)」をベースとして行われる。そこでは提供者と対象者の共通性を基盤として共感・理解を成立させていく。しかし「異他ケア」ではその方法が通用しない。異他の単なる「尊重」では「ケア」にならない。「ケア」にはどうしても「理解」の次元が必要となる。

キーワードは「インタパシー(Interpathy)」(参照、アウグスバーガー)である。「インタパシー」とは「Inter」の「Pathy」、つまり異他同士の間の共感・理解を意味する。そこではケア提供者が、自身の勝手な推測や憶測によることなく、先入観や偏見のないまっさらな心で対象者の語りと向き合い、その異他的なものさえも理解し得る、より包括的な視点へと目覚めていく必要がある。そのためには開かれた心、新しいものを吸収していく柔らかい心が必要だろう。それゆえ「インタパシー」は「教えて頂く」「学ばせて頂く」姿勢で相手と向き合うことともいえる。

我執からの自由へ

生死の探究・実践の場

異他ケアに限らず質の高いスピリチュアルケア実現のための鍵となるのは、ケア提供者自身の価値観や信念などの「ビリーフ(Belief)」から自由な在り方である。特定の対象へのビリーフに繋縛されている限り、それと異他的な物事に開かれることは不可能だからである。

実はチャプレンや臨床宗教師の教育プログラムの主眼もそこにある。この「ビリーフ自由」の修行は、教育後もケア提供者であるかぎり生涯必要となる。しかも「ビリーフ自由」は、実は宗教者の重要課題である「我執からの自由」を意味する。それゆえ、そうした「ビリーフ自由」の修行は、宗教者本来の仕事にも適ったものであるといえる。

しかもスピリチュアルケアの対象者は、人生の困難や危機を歩んでいる人たちである。彼らに寄り添っていくプロセスでは、ケア提供者自身も、ケア対象者が直面している困難な状況と正面から向き合い、自分自身の問題として具体的な生き方を発見していかなければならない。そこではどのような困難でも通用するような普遍的な生き方が問われることになる。そしてもちろん、臨床宗教師のケア対象者には終末期患者も含まれる。

臨床宗教師活動の現場はこのように、宗教者の本来の専門である、人間の実存的な生死についての探究と実践の極めて貴重な場でもある。ただし私たちは、ケアの第一義的な目的があくまでも対象者へのケア自体にあることを常に忘れてはならないだろう。

「教え」は何のためへの答え

前述のように「臨床宗教師」活動の特徴の一つには「インターフェイス」性があるが、これは実は、ケア対象者との関係性に限ったことではない。現場では、宗教・宗派の違いを超えてケア提供者同士が協働する必要がある。そこではもちろん、現場でのミッション達成に向けた具体的な活動についての協働が中心となる。

しかしそれは、同時に自らの宗教・宗派の教えの実践や体現が問われる場でもある。自らと異他的な教えを有する宗教の宗教者の、尊敬すべき人間性や優れた働きを目にした時などには、自身の信仰やその実践の在り方を根本から見つめ直すことにもなる。無論、互いの「教え」について他宗教・宗派の宗教者と会話する時間を見つけることも可能であろう。そこでは相手に対して自らの宗教・宗派の教えをわかりやすく、しかもその本質を明確に表現しなければならない。それは自らの教えについての理解の深さを問われる場ともなる。

本論の冒頭において、臨床宗教師の初学者の問いに言及した。最後にその問いに立ち戻ってみよう。「臨床宗教師活動において自らの宗教・宗派の教えが出せないとしたら、宗教者がそのような活動を行う意味はどこにあるのか」。それはさらに「臨床宗教師にとって教えは何のためにあるのか」との問いとして言い換えることができる。

答えは次のようになる。すなわち、「臨床宗教師の現場では、『教え』は『伝えるべきもの』というよりも、むしろ『宗教者自身が体現すべきもの』である」。

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