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行基研究とその課題「行基の実像に迫る」とは(2/2ページ)

佛教大非常勤講師・堺行基の会副会長 若井敏明氏

2019年7月9日 11時41分

律令国家は寺院の所領、つまり寺田には租税を課さなかった。つまりその土地は免税の特権を認められていたのである。したがって寺院もそう勝手に造営できるわけではなかった。じじつ僧尼を対象とした僧尼令では、私に道場を建てることは禁じられている。

たとえば、行基は四十九院といわれるほど多くの道場を建立しているが、天平10(738)年ころに成立したとみられる「古記」という大宝令の注釈書には、僧尼令が禁止している私道場の事例として行基の道場をあげているから、そのころはまだ寺院として認可されていなかったのである。それらの多くは、行基が社会事業をおこなうようになってからのもので、破却されたりはせず、事実上黙認されたようだが、正式に存立が保証されたのは、『行基年譜』が記す天平13年の行基と聖武天皇の会見の際のことらしい。

行基が平城京内に建てた菅原寺の場合、『行基年譜』によれば天平20(748)年11月に聖武天皇は菅原寺に行幸して喜光寺の寺額を与えたという。これがこの寺が正式に天皇や政府から公認されたことを示すと思う。その時はじめて喜光寺は租税免除の特権を持つ寺田の所有を認められたのであろう。その他の院が寺田を所有する寺院になったのも、菅原寺が寺額を与えられたのが転機となったのだろう。このような寺院の公認は、寺号の認可とその寺号を額にして掲げる行為を伴ったので、寺院公認を求めることを「額を求める」と表現したらしい。

ところで朝廷の崇仏政策もあって寺院の数は相当数にのぼった。『扶桑略記』によれば、692年には灯分稲、つまり灯明の費用を朝廷から援助してもらった寺院が全国で545寺もあったという。8世紀ともなればその数はさらに増加していたであろう。ところが、そのなかには、寺院の経済的特権を悪用したものもあったらしい。『続日本紀』には、奈良時代のはじめに豪族たちが寺院を建立して争って「額題」を求め、その寺院所有の財産を横領しているという記事がみえる。

彼らは形だけ寺院を建立して、堂塔のメンテナンスや僧侶への布施などを怠っていたのである。財産隠しに法人を設立し、職員に給料を支払わないようなものである。当然、生活に困窮した僧たちは寺院外で活動していかなくては生きてゆけない。そのなかには、あやしげな治病行為にはしる者もいたろうし、集団を組んで托鉢をおこなう者もいただろう。奈良時代初期にはそのような今でいう非正規雇用や不安定雇用、ブラック企業で苦しむ僧尼がいたのであって、初期の行基集団はこのような僧尼を抱え込んでいたのではないかというのが私の推測である。その集団があらたな活路を社会事業の推進に求めた。その点では行基はいわば模倣者だったのである。

行基が社会事業を手掛けるようになった要因には、三世一身法やその前の百万町歩開墾計画のような政府の開発志向があっただろうし、聖武天皇の難波再開発事業との関連も考えるべきだが、そのような見方も無意味ではなかろう。

行基の実像に迫るとは、行基の偉大さを明らかにすることなのはいうまでもないが、行基だけを誇大に評価するのではなく、等身大の彼を奈良時代の歴史のなかに位置付けるということでもある。そのためには行基を同時代のほかの仏教者と比較するという視点が欠かせない。しかし如何せん、その史料はごく少ない。そこをいかに斬新な方法で克服してゆくか。本年もまた10月に行基大感謝祭が催される。このような課題も含めて、行基について新たな発見があるかと、今から楽しみである。

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