PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

遺族、悲しみから回復への道程―地下鉄サリン事件から25年①(1/2ページ)

地下鉄サリン事件被害者の会代表世話人 高橋シズヱ氏

2020年9月24日 11時31分
たかはし・しずえ氏=地下鉄サリン事件で営団地下鉄霞ケ関駅助役だった夫を亡くす。地下鉄サリン事件被害者の会代表世話人。内閣府犯罪被害者等基本計画検討会委員。各地で講演や研修講師多数。著書に『ここにいること~地下鉄サリン事件の遺族として~』、共著『〈犯罪被害者〉が報道を変える』、被害者の会刊行の『それでも生きていく~地下鉄サリン事件被害者手記集』など。

1995年はオウム真理教による地下鉄サリン事件の年であり、それをきっかけに同年末には宗教法人法改正が行われるなど、「宗教とは何か」が問われた年だった。2018年7月には教祖麻原彰晃をはじめ幹部13人の死刑が執行され、オウム真理教の一連の犯罪は歴史に埋もれる道をたどろうとしているようにも見える。しかし、いま現在の私たちにも深く関わるはずの問題が、わずかに手を付けられたのみで放置されている。25年の時の経過とともに事件が風化するに任せるわけにはいかない(10回連載の予定)。

◇ 

地下鉄サリン事件当日、私は銀行でパート勤務についていた。営団地下鉄霞ケ関駅の職員だった夫とは結婚記念日に旅行する予定だったので、この日、泊まり勤務明けの帰りがけに旅行のパンフレットをもらってきてもらおうと、朝一で駅に電話をしたが、全然つながらなかった。まもなく夫が病院に搬送されたという連絡があった。銀行のロビーの電光掲示板で、日比谷線で事故があったことは見ていたが、まさか霞ケ関駅でも何かが起きているとは思ってもいなかった。

急いで病院に駆けつけたが、夫はすでに冷たくなっていた。どうしてこんなことになってしまったのか、事態がのみ込めなかった。翌日、司法解剖が行われた。待機していた部屋には読み散らかされた何紙もの新聞があって、「サリン」とか「テロ」という大きな文字が躍っていた。前年の松本サリン事件のニュースでサリンが猛毒の化学兵器だということは知っていたが、オウム真理教のことは知らなかった。

事件以来、毎日メディアが押しかけてきて、夫の生活や趣味など聞かれたが、事件については答えようがなかった。強制捜査後、信者が続々と逮捕され、テレビでは幹部信者が言いたい放題で会見する様子が映し出され、都庁小包爆弾事件や信者刺殺事件などが相次ぎ、事態は混迷していた。私には、ただ夫が殺された悲しみと怒りがあるだけだった。やがて刑事裁判が始まると、どうして夫が死ぬことになったのか知りたくて、傍聴に通うようになった。

初公判で見た教祖・麻原には嫌悪感をもち、なぜ多くの人が盲信してしまったのか、俄には信じられなかった。法廷での教祖らしからぬ麻原の言動に、次第に事件に関与した弟子たちの心が離れていくのは当然の成り行きだった。麻原の呪縛を恐れず対決姿勢を示した弟子たちの証言から、麻原の身勝手な教義で信者を拘束する仕組みがわかった。教団内で起きた殺人から犯罪行為がエスカレートし、違法薬物を製造して修行に利用するなど、宗教法人どころか殺人集団だと思った。

夫がサリンの包みを処理した千代田線でサリンを撒いた実行犯は、有能な医師だった林郁夫だった。事件から2カ月もしないうちに麻原のまやかしに気付き、法廷で夫の名前を挙げ謝罪するのを聴き、私は涙をこらえきれなかった。傍聴席にいたジャーナリストの江川紹子さんが横に来て声をかけてくれた。証人出廷の召喚状がきたが、事実を証言する林郁夫の捨て身の態度や反省の涙をどう評価したら良いのか、極刑を望んでいた気持ちも揺らぎ、結局、上申書を提出して欠席した。

三木清没後80年に寄せて 室井美千博氏11月7日

志半ばの獄死 「三木清氏(評論家)二十六日午後三時豊多摩拘置所で急性腎臓炎で死去した。享年四十九、兵庫県出身。三高講師を経て独仏に留学、帰朝後法大教授、著書に歴史哲学その…

三木清 非業の死から80年 岩田文昭氏10月27日

三木の思索の頂点なす著作 三木清(1897~1945)が豊多摩刑務所で非業の死をとげてから、今年で80年を迎える。彼が獄中で亡くなったのは、日本の無条件降伏から1カ月以上…

《「批判仏教」を総括する⑦》批判宗学を巡って 角田泰隆氏10月20日

「批判宗学」とは、袴谷憲昭氏の「批判仏教」から大きな影響を受けて、松本史朗氏が“曹洞宗の宗学は、「伝統宗学」から「批判宗学」に移行すべきではないか”として提唱した宗学であ…

各地で出没するクマ 「殺生」に供養の心を(11月7日付)

社説11月12日

排外主義への警戒 日常レベルの交流が重要(11月5日付)

社説11月7日

宗教法人の悪用防げ 信頼回復のための努力を(10月31日付)

社説11月5日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加