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三経義疏の研究状況(2/2ページ)

元駒澤大仏教学部教授 石井公成氏

2021年4月27日 09時16分

なお、推古天皇が皇太子に講義させたとあるが、こうした場合、講経を行う側が「天皇の奉為(おんため)」と称し、寿命長久などを願って功徳のために講経するのが普通であり、それを申し出て許可されたと見るべきだろう。講経では、国王の娘であって隣国の王の妃となった勝鬘夫人が、大乗仏教の心がまえを守ることを誓い、人々に深淵な教理を説いて釈尊から賞賛されたとする経典の内容を解説し、勝鬘夫人が素晴らしい菩薩であることを強調したのだろう。

これはまさに、初めての女性天皇となり、仏教を広めるよう命令を下した推古天皇にぴったりの内容であり、「推古天皇も菩薩だ、菩薩天子だ」と説いたに等しいことになる。後のことになるが、中国で史上唯一の女帝となった則天武后も、仏教を利用し、自分は菩薩の化身であることを宣伝させていた。男尊女卑の儒教では、女帝はありえないためだ。

『勝鬘経義疏』については、敦煌文書中のある注釈が『勝鬘経義疏』と7割ほど一致することが発見され、これが『勝鬘経義疏』が手本とした「本義」であるとされてニュースになったことは有名だ。その研究の結果、『勝鬘経義疏』は中国北地の二流の簡略本であって、遣隋使がこれを持ち帰ったのを太子が読み上げただけだ、とする説もなされた。

しかし、『勝鬘経義疏』は『法華義疏』『維摩経義疏』と同様、和習が目立つため、中国撰述ではありえない。また、文が『源氏物語』のようにうねうねと長く続いており、古代韓国の変格漢文とも異なっている。

しかも、その後、新たに発見された『勝鬘経』注釈の西域写本も『勝鬘経義疏』と共通する箇所が多かったのだが、この注釈はその独自の用語から見て、梁の三大法師の一人であった開善寺智蔵(458~522)の注釈と考えられている。『維摩経義疏』については、用語から見て、残る三大法師の一人である荘厳寺僧旻の注釈に基づいているとする説もある。

つまり、三経義疏は、梁の武帝の時代の三大法師の注釈を略抄し、ところどころで自分の解釈を述べていたのだ。しかし、太子が活躍していたのは隋の時代であり、隋を代表する三大法師と言われる僧たち、すなわち地論宗の浄影寺慧遠、天台宗の天台智顗、三論宗の吉蔵は、梁の三大法師を批判することによって、新たな教学を築きあげていた。

たとえば、梁の三大法師たちは、大乗に似た面のある小乗仏教の論書である『成実論』の法の分類を用いており、すべての命あるものは仏になれると説くのみである『法華経』と違い、すべての命あるものは「仏性」を有していると明言した『涅槃経』を最上の経典として『法華経』を低く見ていた。これに対して吉蔵は、三大法師を「成実師」と呼んで小乗の教理に縛られていることを批判し、『法華経』は「仏性」という語を用いていないだけであって、その内容をきちんと説いていると述べ、そうした優れた教えを理解できない者たちのために補足として『涅槃経』が説かれたと論じていた。

ところが、『法華義疏』は『法華経』を高く位置づけているものの、『成実論』に基づく『法華義記』の文章を切り貼りしており、『法華義記』と同様に「仏性」の語は一度も用いていない。これだと、『法華義疏』の筆者は小乗寄りの「成実師」ということになってしまう。

この点を懸念したのが、「宗」による仏教史の枠組みを確立した鎌倉時代の大学僧、凝然(1240~1321)だ。三経義疏研究に一生をささげた凝然は、聖徳太子を教えた慧慈や慧聡などの韓国僧は、大乗である三論宗の僧でありながら『成実論』にも通じていた、と主張した。これによって、日本は仏教を導入した聖徳太子の頃から純大乗の国だったことになったのだ。

これは事実とは異なる。三経義疏の特徴を求めるとしたら、人の心に関する深い洞察が見られる点などに着目すべきだろう。これこそ「憲法十七条」とも共通する傾向であり、『源氏物語』に至って頂点に達する日本の特徴の出発点だ。

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