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「類を見ない」世界遺産 紀伊山地の霊場と参詣道(2/2ページ)

龍谷大非常勤講師 湯川宗紀氏

2021年7月12日 09時15分
信仰の広まり歓迎

世界遺産化に積極的な宗教関係者は、「ここに詣でて手を合わし、感謝を表すこと、それは私達の考えと違わない」と自らの信仰の広まりを歓迎し、地域の観光関係者は、行政が特定の「宗教」との関わりについて慎重な態度を見せたりもしたのとは逆に、「宗教」は一つの文化であり、また単なる観光資源、観光商品ではなく、伝えていくべき伝統であるととらえ直し、文化・伝統としての「宗教」を活発に利用しながら観光事業の展開、地域振興を行っている。

その一方で、世界遺産化に消極的な宗教関係者もあり、参拝ではなく物見遊山で訪れる観光客の問題や、新しく施設を建てることができないなど施設運営上の問題で頭を悩ませることになった。

しかし、国策としての観光による地域活性化が住民にも浸透した結果、地元から「観光でやって行こうという町づくりしてるのに」等の不満の声が漏れ聞こえるようになる。世界遺産化に消極的な宗教関係者も国や自治体といったいわば上から高圧的な直接的な指示ではなく、「地域」による「地域」のための世界遺産という大義によって「旅館もおみやげ物屋さんもお寺もお宮も手を携えてやっていかなあかん、というのが地域の使命」「まあ、この熊野は文化と地域と信仰と経済とが折り重なって在る地域」と考え、世界遺産化を否定できない状況にもなった。

観光客減の地域も

ただし、残念なことに世界遺産になったからといって必ず観光客が増えるわけではない。逆に観光客が減った地域もあるという調査報告もなされている。広大な「紀伊山地の霊場と参詣道」も世界遺産登録後、観光客の数が増大している地域もあれば、登録直後から大幅に減少している地域もあり、先の日本交通公社のランク付けも「紀伊山地の霊場と参詣道」すべてのエリアがSランクになったわけではない。世界遺産登録後、観光客が減少した地域からは「最初は期待した」といった声も聞こえる。

「紀伊山地の霊場と参詣道」に限らず、地域活性化を目指し、世界遺産登録に向けて各地域は不断の努力を行っている。しかし、世界遺産登録は多くの要因が複雑に絡み合い、ある時は権力者の思い入れで登録が強力に推進される場合もある。登録された地域の努力を強調しすぎると、登録されなかった地域は努力が足りなかったことになってしまう。公正世界仮説=この世界は努力した者は報われ、怠けた者は報われない、公正な世界。そう信じこめば信じこむほど、人は報われていない者に対し、心を痛めること無く冷徹な態度を取れるようになる。自主・自立により競い合わせることで、その結果地域間格差が生まれたとしても、それはその地域の自己責任であると切り捨ててしまう理由にもなり得る。

様々な団体・地域・個人の様々な思惑によって誕生した「紀伊山地の霊場と参詣道」。有名な神社仏閣、名所などもあるが、これまで誰も気にとめなかったアスファルトで舗装された生活道や裏山の山道、「なぜここが?」と思われるような場所も世界遺産になった「類を見ない」世界遺産。そのことが「ああいう場所が世界遺産の区域なんだという新しい意識をみんなに持ってもらえた」と文化庁の担当官は語る。

「ああいう場所」が世界文化遺産化したことにより、優勝劣敗の競争的価値観を内面化し、観光競争に勝ち抜くための方法を模索していた多くの地域も「新しい意識」を持つようになった転換点、そういう意味でも「紀伊山地の霊場と参詣道」は「類を見ない」世界遺産でもある。

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