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水平社創立100周年を迎えて― 西本願寺教団のこれまでとこれから(2/2ページ)

浄土真宗本願寺派宗会議員・同和教育振興会事業運営委員 神戸修氏

2022年1月6日 09時35分

しかしこの運動は、社会構造や教団の在り方が問われず、差別解消への有効な運動とはなりえなかった(詳細は拙論「一如会は何ゆえに挫折したか」『同和教育論究』33号、同和教育振興会、2013年)。

戦後、一如会的な融和主義的発想への批判を踏まえて起こったのが同朋運動であった。同朋運動の特徴は「差別の現実からの出発」「事件の背景の追求」「加害者の責任の明確化」「被害者の人権救済の重視」である。

1970年の「『大乗』臨時増刊号差別事件」をきっかけに同朋運動は教団全体の運動となり、さらに第24代即如門主より「部落差別は封建制身分社会より引き継がれ、市民的権利と自由を侵害する深刻な社会問題であり、その解決は国民的課題であるとともに、宗門にとって法義上、歴史上、避けて通ることのできない重要課題」とされた『「基幹運動推進 御同朋の社会をめざす法要」に際しての消息』(1997年3月20日)が発布され、「差別法名・過去帳調査」(1983年・97年)などの実績に結び付いた。

「自己責任論の克服」「人間の尊厳」という水平社の問題提起に対する現在の教団の状況では、前者に関しては「悪しき業論」へのさらなる批判と問題意識の共有、後者に関しては、『親鸞聖人の正しい見方』と「業報に喘ぐ」との対決が先取りした、真宗思想と差別、戦争責任などの問題を含めた、宗教と現実社会との関係に関するさらなる議論が重要である。同朋運動から基幹運動への流れを確認し、2012年に始まった現行の「実践運動」において「基幹運動の成果」をさらに生かすことが必要であろう。

2016年12月9日に「部落差別の解消の推進に関する法律」が成立。「部落差別が厳然として存在する」という前提から、特に近年の悪質で確信犯的な差別への対応の必要性を謳ったこの法律の制定は画期的だ。

宗門においても、この法律の精神を受けとめ差別の克服へ一層の努力を傾けることが、宗教教団としての公共性を担保し、その社会的存在意義をより確実にすることになるのである(詳細は拙論「『部落差別の解消の推進に関する法律』の意義について」『宗報』597号、2017年6月号)。

水平社の問題提起には、若い世代の応答が求められる。いつの時代でも若者は希望である。教区や組での研修はもちろん、宗門の大学教育、特に教学を学ぶ場において、こういった水平社の運動や一如会の活動、「業報に喘ぐ」と『親鸞聖人の正しい見方』との論争など、多くの学生に宗教と社会との関係や、差別事件を含んだ近現代の真宗教団史・思想史を深く学ぶ場所が提供されることも重要であろう。

〈註1〉「募財拒否の決議通告」(1922年、『水平』近代文芸資料複刻叢書第7集、世界文庫、1979年)。文中の「決議」「宣言」「綱領」「或る人に」「解放の原理」はこの叢書。
〈註2〉1872(明治5)年の歴史上初の西本願寺教団の部落差別に関する公式文書たる「乙達三七号」では、差別禁止の根拠が前年8月に出された「賤称廃止令」に求められ、差別事件の責任が事件の行為者個人に帰されている。
〈註3〉大谷尊由(1886~1939)。管長事務取扱、拓務大臣などを務めた。
〈註4〉花田凌雲(1873~1952)。執行、勧学、龍谷大学学長などを務めた。
〈註5〉「悪平等」は「単に差異を無くす事を平等と考える事」が本来の意味。
〈註6〉『教海一瀾』(670号1922年4月26日付)。
〈註7〉袴谷憲昭『批判仏教』(大蔵出版、1990年)。
〈註8〉菱木政晴『解放の宗教へ』(緑風出版、1998年)。
〈註9〉『ツァラトゥストラ』(『ニーチェ全集』9巻、吉澤傳三郎訳、理想社、1969年)、『遺稿』(同13巻)など。
〈註10〉中村甚哉(1903~45)。本願寺派僧侶。全国水平社創立大会に参加、全国水平社青年同盟中央委員などを務めた。詳細は「中村甚哉と真宗信仰」(奥本武裕『同和教育論究』35号 同和教育振興会、2014年)。
〈註11〉西岡映子「米びつの底たたいて」(1950年代後半の大阪の「住宅要求期成同盟」の闘いの回想手記)、『部落史をどう教えるか』(寺木伸明他、解放出版社、1993年)所収。
〈註12〉三浦参玄洞(1884~1945)。本願寺派僧侶。西光万吉、駒井喜作などと親交。詳細は『三浦参玄洞論説集』(浅尾篤哉編、解放出版社、2006年)及び「『三浦参玄洞論説集』刊行によせて 上・下」(藤本信隆『同和教育論究』27号・28号、2006年・08年)。
〈註13〉梅原真隆(1885~1966)。執行、一如会協議会議長、参議院議員、富山大学学長などを務め、同和教育振興会設立に大きな役割を果たした。

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