大阪万博と大阪・関西万博(2/2ページ)
和光大講師 君島彩子氏
さらに庭園には高さ3㍍の「平和観音」が建立された。天台真盛宗の山崎良順が中心となる昭和同願会は、従軍経験から戦没者供養と平和祈念のため平和観音像を寄贈してきた団体であり、大阪万博の理念に合致するとして出展を申し出た。全日本仏教会のパビリオン不参加を受け、万博協会は仏教的出展が必要と判断し許可したもので、法輪閣と同じ敷地に建立された。戦争の記憶が色濃く残る時代であり、日米安保・ベトナム戦争など国際情勢も相まって、平和への祈りは切実なものであった。
アジア諸国パビリオンでも仏教は重要な文化的共有要素として扱われた。韓国館の鐘閣に梵鐘が吊るされ、仏像や大蔵経が展示された。またタイ館やセイロン館でも多くの仏像が展示され周囲には賽銭が積まれた。この他、インド館、ネパール館、ラオス館、カンボジア館、ビルマ館、香港館、中華民国館、アフガニスタン館、RCD(トルコ・パキスタン・イラン)館など、多くの地域のパビリオンで仏教関連の展示が見られた。既に仏教が廃れている地域でも、日本人来場者への配慮から仏教的造形物が展示されたと考えられる。
2025年の大阪・関西万博は、1970年万博と比較すれば、日本仏教はほとんど前面化しなかった。これは日本に限らず海外パビリオンにも共通する傾向であり、バチカン館を内部に含みキリスト教美術を多数展示したイタリア館や、中央に仏塔を据え仏像・仏具を中心に展示したネパール館を除けば、宗教文化を全面的に掲げた出展は極めて少なかった。
1970年や2005年愛・地球博と比べても宗教展示は明らかに少なく、国際博覧会条約改正以降、万博が「人類共通の課題解決」に重点を置くようになった国際的潮流が背景にあるだろう。
その一方で、2025年の万博は仏教以上に神道的イメージが強く表れたとも言える。白木を用いた大屋根リングは神社建築を思わせ、木材利用という環境配慮の潮流にも合致している。
日本館では伊勢神宮の式年遷宮が「やわらかく作り受け継ぐ」建築理念として紹介され、仮設建築である大屋根リングと思想的に響き合っていた。ここでの神道とは神社神道ではなくアニミズム的なものとして環境思想へ接続する抽象的理念として提示されている。例えば東ゲート前の名和晃平《Snow-Deer》は白鹿を神使とし、温暖化の時代を見つめる存在として解釈されている。
最も神道的な要素は中央の「静けさの森」であるといえるのかもしれない。「鎮守の森」に象徴されるように神社と森は不可分であり、環境思想とも接続する。
2005年愛・地球博が既存の森を活かしたのに対し、夢洲では植林により新たに森をつくり上げた点が特徴であり、明治神宮の植林による森の形成にも通じる。また、植えられた樹木が過去の万博会場から移植されたことは、万博を自然の循環に位置づける象徴的な行為でもある。
ただし大屋根リングは「日想観」を意識して設計されており、美しい夕日の先に極楽浄土を観想できた来場者がどれほどいたかは分からない。神道的なるものにせよ、仏教的なるものにせよ、いずれも「自然」への崇拝的・象徴的な側面が強調されていたと言える。
宗教者が関わるイベントも複数実施された。EXPOホール「シャインハット」では、宗教儀礼と伝統芸能を通して四季を描く「令和今昔四季物語絵巻」が上演され、僧侶・山伏・巫女らが悔過・盂蘭盆会の祈りを捧げ、来場者が映像の太陽に向かい頭を下げる場面もあった。
滋賀県デイでは比叡山延暦寺の「不滅の法灯」が分灯され、天台声明とともに世界平和が祈念された。また若手僧侶による「万博寺」は超宗派法要・生前葬・雅楽演奏など多様な催しが行われ、熱心に手を合わせる来場者も見られた。
ウクライナやパレスチナの展示が示すように現在も戦争は続いているが、1970年に戦争体験を抱えた僧侶たちが万博で平和を祈った時代とは、2025年の実感は大きく異なる。
それでも、人類共通の課題を考える場である万博において、平和を祈る営みには意義があるのではないだろうか。
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