開山1300年の勝縁に寄せて(2/2ページ)
大阪大谷大教授 横田隆志氏
例えば後鳥羽院は、1219(建保7)年の修造事業を支援するとともに、御本尊胎内に自らの名を記した金札を奉納した(「建保度長谷寺再建記録」)。また御本尊の両脇侍である雨宝童子像・難陀龍王像の胎内には、結縁した人々の多数の名前を列記した交名(名簿)が納められている。ここに記されるのは、歴史上何らかの大きな事蹟を残した人々ではない。つまり当時の社会で最高位にある人物から庶民に至る数多くの人々が、長谷寺の復興に尽力したのである。
なお長谷寺は、室町時代(16世紀後半)に豊臣秀長の招きによって真言宗豊山派の派祖・専誉上人が入山され、それ以後は新義真言の教えを学ぶ寺院としての歴史を歩んでいくこととなる。そして秀長の支援により本堂は1588(天正16)年にひとまず落慶したが、17世紀はじめには早くも修理が必要になっていたらしい。そこで長谷寺の第五世能化・尊慶僧正が徳川幕府に本堂の造営を願い出たところ認められ、3代将軍家光から造営費2万両が下賜されるとともに、新たな本堂が造られることとなった。1650(慶安3)年に落慶した本堂は、現在国宝に指定されている。
ところで長谷信仰には、さまざまな独自の特徴が認められる。御本尊である十一面観世音菩薩が右手に錫杖を執り、方八尺(2・4㍍四方)という大磐石に立つ「長谷型観音」となっていることは、その一つである。この大磐石は実在し、現在は宝座蓋という板で覆われているものの、御本尊の復興時にその石の大きさを確かめたことが記録に見えている(「建保度長谷寺再建記録」)。一方、御本尊が霊木で造られたことも重要であり、実は、二丈六尺という大きな御本尊を造立するにあたり、同じ霊木の余った木で自らの寺の仏像を造ったという話が多数存在する。創建当初の御本尊にあやかりたいという願いがその背景にあったことは、想像に難くない。こうした霊木伝承は30カ寺以上の寺院で語られ、北は秋田県から南は宮崎県にまで及ぶ。
このような信仰の広がりと多様性も長谷信仰の大きな特徴である。例えば台湾の高雄市にある慈雲寺には、先代の御住職が感得した機縁により、像高5㍍を超える「長谷型観音」が奉斎されている。
一方、古来多くの人が参詣した長谷寺は、和歌の名所でもあった。清水宥聖師『初瀬和歌集』(青史出版、2014年)によれば、泊瀬と長谷寺に関わる和歌の数は1700首を超えるという。
長谷信仰の中心にあるのは言うまでなく御霊験あらたかな御本尊であるが、その信仰を基盤として、総本山長谷寺ではさまざまな取り組みが行われている。山内の絵画・彫刻・一切経・石造物などをすべて調査し、『豊山長谷寺拾遺』として刊行しているのはその一例であり、貴重な文化財の保全に向けて地道な努力を重ねている。一方、海外とのつながりも注目され、例えば2024年5月、イギリスのノリッジにあるセインズベリー日本藝術研究所からの依頼で、「観音御影大画軸」の出開帳と声明デモンストレーションが行われた。また長谷寺では4月中旬から下旬に、ぼたんの花を御本尊に奉納する「ぼたん献花会」を行ってきたが、地域の活性化につながるようにと、23年、長谷寺のぼたんにゆかりのある唐朝の后、馬頭夫人の練供養に参列してもらうため、衣装のデザイン・作製および衣装を着て参加する方を公募した。華やかな彩りを加えた「ぼたん献花会」の様子は、新聞各社も報じるところである。
このように総本山長谷寺では、文化財保全、海外との交流、地域貢献等、開山1300年の歴史を受け継ぎ、それをさらに発展させるための多様な取り組みがなされている。次の100年に向けても、長谷寺は着実な歩みを重ねていくにちがいない。
開山1300年の勝縁に寄せて 横田隆志氏1月29日
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