人物叢書 新装版 成尋…水口幹記著
仏法を求め中国に渡った僧は数多い。平安後期に渡宋を果たした天台僧成尋もその一人で、円仁の『入唐求法巡礼行記』と並ぶ貴重な巡礼の記録を残したことで知られる。
藤原北家の流れをくむ。生年は諸説あり、著者は諸文献を分析し、1013年が有力とする。父の実名は不詳だが、母は渡宋した成尋への思いをつづった『成尋阿闍梨母集』を残した。叔父には『宇治大納言物語』の作者源隆国がいる。
7歳の時、仏門に入り、京都岩倉の大雲寺(寺門派)で修行を重ね、寺主、阿闍梨となった。若い頃から渡宋巡礼の願いは深かったが、実現したのは60歳の時。日本に戻ることは考えなかっただろうと著者は推測する。
『参天台五臺山記』は入宋後の日々を記し当時の中国社会の記録としても価値が高い。本書では引用の公文書も含めて適切な解説が付され、千年近く昔の宋の僧院の仏事、庶民の生活、行政との交渉などが極めてよく分かる。宋の都・開封への旅、神宗皇帝拝謁、五臺山巡礼、開封での僧徒との交流、宋朝訳経事業の見聞、開封の高僧と共に行った祈雨修法の成功などが詳しく記される。帰国する弟子たちを見送り「日本とのしがらみ」を断ち切った成尋は69歳で入滅。勅により天台山国清寺に葬られたと伝えられる。
定価2420円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。