南北仏教の出会い:近代タイにおける日本仏教者,1888-1945…村嶋英治著
インドのピプラワで1898年に発掘された「真正な」仏骨は、タイ国王のチュラーロンコーン5世に寄贈された。その一部は国王から日本の仏教界に分与され、大谷派の大谷光演を正使とする奉迎団がタイで国王から仏骨を受け取った。近代日本の仏教史上の一大イベントであった。
本書の第6章は駐バンコク弁理公使稲垣満次郎と大谷派参務だった石川舜台を中心に、タイ側や舞台裏で活動した日本人の資料も駆使してこれを論じる。稲垣や石川のような異色の人物が抱いた仏教を軸とする国際関係構築の大きなビジョンが背景にあったことが明らかにされる。このほか「最初のタイ留学日本人織田得能(生田得能)と近代化途上のタイ仏教」「釈宗演、『純正仏法』国シャムでの幻滅」など全16編(章)を収める、約770㌻の大冊。
著者は早稲田大名誉教授で、タイ研究の専門家。本書では上座部の仏教国タイと日本人僧侶の交流やすれ違いを、現地の文書と中外日報をはじめ同時代の報道、記録など資料を博捜して分析する。タイ仏教との関係を通して、近代仏教の一側面が浮き彫りにされる。
早稲田大学アジア太平洋研究センター刊。非売品だが「早稲田大学リポジトリ」で全文をダウンロードできる。送料のみ希望者負担で本自体を贈呈することも可能という。問い合わせはメール()で。