古墳と壁画の考古学 キトラ・高松塚古墳…泉武・長谷川透著
1972年3月、奈良県明日香村の高松塚古墳石室で日本初の古墳壁画が見つかった。極彩色の壁画は人々を魅了し、考古学における「世紀の大発見」となった。その11年後の83年には、キトラ古墳で壁画が発見された。本書は古墳壁画がある「特別な二つの古墳」について、制作技術や造営場所、誰が誰を埋葬したかなど、これまでに蓄積された考古学的知見を踏まえて考察し、平易な形で紹介する。
第1章「西飛鳥の古墳とキトラ・高松塚古墳」では、両古墳がある西飛鳥の古墳の分布と具体例を示して特性を概観。朝廷を主導した勢力の葬地であったことを記す。第2章「キトラ・高松塚古墳の築造技術」では土地の造成や石室構築・墳丘の築造に関わる建築・土木技術を紹介する。第3章「壁画の制作と技術」では、壁画を描くための技術(壁面の割り付けと作画法)や使用された顔料について考察。顔料の記述は類書でもあまり見られないという。第4章「キトラ・高松塚古墳の被葬者像」では最大の「関心事」とされる被葬者に関して著者の見解を述べる。
両古墳の発掘は壁画保存をメインとして行われ、貴重な考古学的知見が得られたという。両壁画に関して「統一感を見てとれる」と評する著者がその具体像に迫る。
定価2200円、法藏館(電話075・343・0458)刊。