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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

峨山さまと禅文化 ― 世阿弥に禅的精神継承(2/2ページ)

曹洞宗善寳寺住職 五十嵐卓三氏

2015年10月30日
■日本の禅

鎌倉期に将来された両宗には際立った特徴がある。臨済宗は京都・鎌倉に見る五山十刹が物語るように、それぞれが由緒ある大寺院の寺名を冠した臨済各派本山(建仁寺派、建長寺派等)を形成した。一方、曹洞宗は永平寺・總持寺の二大本山を中心に、坐を中心に据えて僧堂を場とした生活仏教を確立した。【坐と清規】を通して、日本的文化を創出することになる。それが【道】という文化となる。

【道】といえば、日本人にとって最も親しいのは武士道である。『武士道』の著者、新渡戸稲造が言う。「武士道はその表徴たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である」と。そしてまた「ある剣道の達人が……告げていった。業(わざ)の極意は余の指南の及ぶところではなく、禅の教えに譲らねばならない。禅とはディヤーナの日本語であって……」とあるように、日本人にとって「○○道」は日本の文化的言語表現となって、今日に至っている。

■むすびに ―道の文化―

「門に入らば、まず額を看よ」といわれるように、そこに「書」がある。案内されて香りに包まれながら客間に通される。床の間の正面の掛け軸を中心に、バランスよく香台、香炉、花台、花器等が坐っている。日本人の伝統的な住まいである。そこはお茶をいただく場でもある。お茶について語られている先人の文言に耳を傾けてみる。

「喫茶に禅道を主とするは、紫野の一休禅師より事起れり」『禅茶録』

「小座敷の茶の湯ハ第一仏法を持って修行と得道する事なり」『南方録』

書道と茶道がともにあって、床の間に静寂さが満ちる中で、お香の香りがその静寂さを一段と深めてくれる。香道の世界に包まれる。

ことこのように、私たちの周辺には【道】の世界が溢れている。【道】ということを最も大事にされたのは道元禅師であった。『正法眼蔵現成公案』に「佛道をならふといふは、自己をならふなり。自己をならふといふは、自己をわするるなり。自己をわするるといふは、萬法に證せらるるなり。萬法に證せらるるといふは、自己の身心、他己の身心をして脱落せしむるなり」と。さらに仏道における【道】とは「ただ仏法のために仏法を修する、すなわち是れ道なり」―『学道用心集第四』―と教示されている。ここに言う【道】であるが、能楽の大成者、世阿弥の『風姿花伝』の序に「この道に至らんと思わん者は……歌道は風月延年の飾りなれば、もっともこれを用ふべし」と記している。さらに曹洞宗との関係をみると、日本人の【道】への思いが明確になる。

「佛法にもしうし(宗旨)のさんがく(参学)と申は、得法以後のさんがく(参学)とこそ、ふがん(補巌寺)二代はおほせ候しか」―弟子金春禅竹への書―

とあるように、世阿弥は道元禅師…瑩山禅師―峨山韶碩―大源宗真―了堂真覺―竹窓智厳と次第する流れに禅を修得する法縁を持ったのである。その中でも總持寺二祖として仰がれる峨山さまの『山雲海月』を、世阿弥は了堂―竹窓の補巌寺二代に近侍した中において学ばれたと推測されるものがある。

こうした観点から日本の禅を考えると、インドから中国を経由した禅はそれぞれの土壌に含まれた要素を包み込んで、日本的状況を咀嚼して新しい方向へと進展したのであろう。いささかにぎやかな猿楽を昇華しながら、静寂な雰囲気へと展開するに至った能は【道】の世界への新たな文化的転換であった。その祖ともいうべき世阿弥は好んで妙理、妙用、妙處という〈妙〉を表現している。それは、峨山禅師が『山雲海月』によく用いられている〈妙〉に深い関心を寄せたことにある。いずれにしても、世阿弥の世界には道元禅師・瑩山禅師そして峨山さまの禅的精神が継承されている事実を否定することができない。

やがてその流れは【侘び】【さび】、つまり【茶道】【華道】【香道】の日常的な文化を創出することになる。そして、今日にいう「○○道」の文化となり、スポーツにしても日本独自の文化が【道】の精神を包みながら、柔道、剣道、合気道等々と、今日の世界に語りかけているのである。

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