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公共宗教論のこれまでとこれから ― 日本宗教学会大会シンポ報告(2/2ページ)

筑波大教授 津城寛文氏

2015年12月11日
新キーワード提起

カサノヴァ氏をコメンテーターに迎えた「公共宗教」パネルには、パネリストとして、星野靖二氏(パネル代表、司会)、白波瀬達也氏、島薗進氏、そして私が参加した。私の発表は、個別事例を離れた、もっぱら理論的なもので、焦点を四つに絞った。まず(一)拙著(『〈公共宗教〉の光と影』)で提案した、公共宗教の六つの類型を紹介すること、(二)それらが沈みこんでいく(あるいはそこから立ち上がるべき)「深層文化」を説明すること、(三)政治的議論に偏りがちな公共宗教論を「深層文化」領域にまで広げて、民俗社会や生活世界をさらに重視した議論にすべきこと、(四)「平和」「自由」「正義」といった自明の価値観は、諸文化によって論理以前の優先順位があって、それらは「深層文化」に関わること、であった。

私の発表に対するカサノヴァ氏のコメントは、予想どおり「深層文化」という「挑戦的」なタームに集中した。「深層文化とは、どこから来るのか」「異なる深層文化が共有すべき、グローバルなコンセンサスはないのか」「深層文化も変容するのではないか」「深層文化も歴史化・文脈化されなければならないのではないか」「本質主義的に描かれると、それは基礎付け神話になるのではないか」といったものであった。

歴史・文脈化の試み

これらのコメントを言い換えると、「(深層)文化」概念が、もし固定化、実体化されると、グローバルなコンセンサスによる共通善のプロセスを阻害する、閉鎖的で、排他的な働きをするのではないか、という懸念になる。

「深層文化はどこから来るのか」という問いに対しては、「私は知らないし、誰も知り得ない」と答えた。その他の問い質しに対しては、私も当然このような懸念を共有しており、深層文化は、すべての宗教や文化と同じく、歴史や地理のどこかに固着することは、望ましくなく、当然変化すべきであり、変化し得るものであること、とくに公共善の合意のプロセスにとって有害な要素は、宗教に関するものであれ文化に関するものであれ、変化すべきであるとした。

私の発表が特定の事例を扱っていないのに対して、他の発表は、それぞれ日本の文脈、歴史に即して、着実な理論化を図るものだった。宗教の私事化を理想とする言説や、近代化論の見直しによって、宗教の公的役割の再考が求められていることの指摘(星野氏)。現代の国家神道的なナショナリズムの動きと、仏教教団などの平和主義的な動きを、公共宗教の二つのタイプとして対比する試み(島薗氏)。宗教の社会参加という問題を、福祉領域に焦点を当ててみることで、「公共宗教」のあり方を類型的に析出するもの(白波瀬氏)。これらは公共宗教の問題を、日本という歴史、文脈の中に見事に浮き彫りにする、まさにカサノヴァ氏の求める「歴史化、文脈化」の試みであった。

日本が重要な役割

パネリスト4人すべての発表が、公共宗教を複数形で考えていることは、明示的に強調されてなくとも、暗黙の前提となっていることが明らかである。こうした複数の公共宗教が、より大きなバーチャルな公共宗教を目指して交錯し、そのプロセスは、グローバル社会全体を支えるに至るまで、止まることはない、というのがわれわれの共有するビジョンではないだろうか。

日本の文脈で公共宗教を考えることについて、カサノヴァ氏が「貴重な機会」とコメントされたのは、ただの社交辞令ではなく、おもに西洋的、イスラム的な文脈で考えられる公共宗教を、よりグローバルなパースペクティブで考えるため、日本的事例が重要な役割を果たすと考えるからであろう。われわれはその期待に応えたいと思っており、今回の宗教学会のパネルをきっかけとして、とりあえずは日米での共同研究を始めるべく、公共宗教研究のやや大きなプロジェクトを計画しているところである。

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