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第22回「涙骨賞」を募集
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権威化する近代教学(2/2ページ)

真宗大谷派玄照寺住職 瓜生崇氏

2018年1月31日
■「死んだらお助け」再び

私は様々な人に見解を求めました。その中にはただ「曽我先生を批判するのは許せない」と嫌悪感を示すばかりのものもありましたが、私が気になったのは、小谷氏の主張を批判するときに出てくる一つの「型」です。

本紙昨年11月8日付の「論」に京都大名誉教授の長谷正當氏が書いておられる内容がその典型的なもので、長谷氏の文から引用すると「真宗の伝統的な教えでは、往生は定まっても、往生するのは死後だから、『いま苦しんでいても、死ぬまで待っておれ』というふうに教えられてきた」というものです。つまり、「現生往生」を否定する小谷氏は、「今の救い」を否定し、「死後の救い」を説いているとして非難されるのです。

言うまでもなく生きている今に「往生」が定まり、その歩みが始まることが、親鸞聖人がもっとも明らかにしたかった本願の救いです。往生が死後だろうと現生だろうと、ここが浄土真宗の要諦であることに疑義を呈する人は、小谷氏はもちろん真宗諸派の教学者を探しても一人もいないでしょう。しかし、来世の救いを説くものはまるで現生の救いをも否定しているかのように受け取られ、「いま苦しんでいても、死ぬまで待っておれ」だと決めつけられてしまうのです。

こうしてバッサリと両端を切り落とされてしまった往生の歩みは、南無阿弥陀仏の名号を往生の証とするのではなく、今の歩みそのものに証を求める教えに変質してしまっているように私には思えます。

だからこそ多くの大谷派の現場での法話がただの現代社会批判に終わったり、「浄土を頂いて生きる」「真宗に立つ」「課題に向き合う」といった、「歩みのあり方」の話に終始してしまうのではないでしょうか。

■「枠組み」を超える力

小谷氏の『真宗の往生論』の発刊から2年半がたち、大谷派の諸師からその反論も聞いてきました。しかし、それはどこか「分からないものには分からないだろう」という冷ややかな態度であり、それでいて捨て置けないとでも言いたげなもので、氏の論に真摯に向き合っているという印象を感じさせるものではありませんでした。

概して宗教というのは長い歴史の中で、信仰や信心を誤りなく語ることのできる「枠組み」を生み出します。そして、どの宗教もその「枠組み」から外れた人たちを「異端」や「異安心」といって排斥してきた歴史を持っています。

私が大谷派という教団に入り、近代教学という輝かしい伝統に触れた時に驚いたのは、我々の先達が伝統教学という前提を疑い、勇気を持ってその「枠組み」を超え、救済の本質を明らかにしてきたことです。

だから長谷氏が言うように、曽我の現生往生的解釈は「親鸞の書いたものを、現代に生きる自己の身上において問い直すという教学的思索を通して導かれたものであることが見失われてはならない。そこからするなら、経文の上だけで、その往生論が正解か誤解かを決定してみたところで、実は意味がないのである」というのは全くその通りだと思います。

しかし小谷氏の論が、ただ経文の上で曽我の解釈に正邪をつけているだけのものとは私は思いません。むしろ、その教学的思索によって「枠組み」を超えた曽我をはじめとする近代教学諸師の言葉を、伝統教学に代わる新たな「枠組み」とし、その言葉を受け継いだ者が自らその中に閉じこもって権威化することに対する、問題提起に他ならないと思うからです。

曽我を権威化し、曽我の言葉をもって曽我の思索から外れる者を裁くような教団を、果たして曽我は望んだのでしょうか。私たちはこの問題提起を嘲笑するのではなく、十二分に向き合って議論を尽くすべきです。

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