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仏教者として性的多様性の実現を(1/2ページ)

浄土宗総合研究所研究員 石田一裕氏

2019年2月22日
いしだ・かずひろ氏=1981年生まれ。浄土宗総合研究所研究員、大正大非常勤講師。浄土宗久保山光明寺副住職。大正大大学院仏教学研究科博士課程修了、博士(仏教学)。専門はインド部派仏教研究。著書に『お坊さんはなぜお経を読む?』など。

浄土宗総合研究所では『総研叢書』という書籍を隔年で刊行している。2018年3月、その第10号として『それぞれの輝き:LGBTを知る―極楽の蓮と六色の虹―』を上梓した。私は全体の編集にも関わり、「LGBTの問題」を考える機会を得た。

LGBTはレズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)の総称であり、性的少数者を示す用語である。最近ではSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)という語も用いられる。この語は「性的指向と性同一性」などと翻訳ができ、自分がどんな性別の人を好きになる傾向があるか、また自分自身の性をどのように認識しているかを意味し、あらゆる人間に関わるものである。社会の多数派は、性別が女性で自分を女性と認識し、男性を性の対象とする人々と、性別が男性で自分を男性と認識し、女性を性の対象にする人々であり、これと異なる人々が少数派である。LGBTの当事者も、そのような少数派に区分される。今、社会で問題となっているのは、多数派の人々は自身の性的指向や性同一性によって不利益を被ることがほぼ無いにもかかわらず、少数派の人々はそのことによって様々な生きづらさを抱えている点にある。

先に「LGBTの問題」と述べたが、これはLGBTの当事者たちに起因するものではない。多数派がそのような人々と向き合う中で生み出される問題であり、社会の「常識」に起因した問題といえよう。性的少数派の苦しみは、それがまだ常識となっていないことから生じるものと捉えられる。私たちの常識が変化すれば、その苦しみも和らいでいくであろう。

さて、ここでは第一にこの問題を仏教者が考える必要性、次にこの看過できない問題を前に何ができるかということ、最後に仏教の教理からどのように考えることができるかを述べていこう。

まず、この問題を仏教者が考える必要性とは何か。私は寺院を運営する僧侶は、LGBTを含めたあらゆる差別に苦しむ人々のことに常に思いを寄せていかねばならないと考える。なぜなら、寺院は多くの人が集う場所だからである。寺院に参拝する人々は年齢や性別も様々であり、近年では国籍も多様化している。障害を抱える人が参拝に来ることもあり、バリアフリー化を進めている寺院もあるだろう。寺院が、あらゆる人が個人として仏や自分自身と向き合うことができる場所であるために、どのようなことをなしていくべきかを考えることは、そこに住み、運営を担う人の責務である。正座ができない人のために、本堂に椅子を用意するように、僧侶や寺院はあらゆる人が心休まり、穏やかな気持ちで参拝ができるような工夫をすべきである。生きづらさを抱えている人がそれを感じることなく、安らかな気持ちで過ごせる寺院は、どんな人でも安心して参拝できる場所となるのだ。

次に、仏教の実践的な観点からも、この問題は見過ごされてはならない。仏教は苦の滅を説く。それとともに苦の滅に至る具体的な道を提示する。つまり苦の滅とはただの言葉ではなく、実現されるべき目標である。仏教者とはその目標を実現するために実践を重ねる人のことであろう。慈悲や利他もまた、ただの言葉ではなく実現されるべき徳目である。様々な形で苦しんでいる人に、自分のできうる範囲で手を差し伸べることが、その実現につながるのだ。「生まれによってバラモンになるのではない、行為によってバラモンとなるのだ」という『スッタニパータ』の一文は、仏教が持つ平等を象徴する言葉としてしばしば紹介されるが、この言葉に安住し、何もしないのであれば、決してそれは実現しない。それに基づいた実践があってこそ、その言葉が真実となるのだ。

しかしながらその実践は簡単ではない。実際に多くの仏教教団は差別に関わった過去がある。また私たちは仏教教理の中に性差別や、人権を損なう教えを見いだすこともあるだろう。仏教教団はそのような過去を踏まえ、それを反省し、教理の意味を考究しながら、人権についての意識を高める取り組みを行ってきた。LGBTの問題についても、現にそのことで苦しみを感じる人々がいる状況において、私たち自身が何をなしていくかが問われている。

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