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寺族女性と過疎地域寺院 ジェンダー平等な社会を目指して ― 過疎地寺院問題≪5≫(1/2ページ)

名古屋大助教 横井桃子氏

2019年10月25日
よこい・ももこ氏=1987年生まれ、鹿児島県出身。大阪大大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(人間科学)。浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手、南山宗教文化研究所研究員を経て、現在、名古屋大助教。専門は宗教社会学。

寺院には住職がいて、その住職には家族がいる、というのは読者にとってごく当たり前の感覚だろう。住職はその配偶者とともに寺院を切り盛りしながら地域に溶け込み、一般的な家庭と同様に子育てをして、次の世代へと寺院運営を継承する。世襲制の賛否はさておき、寺院の多くが住職とその家族によって運営され継承されている。

そうした家族運営のなかで住職と並んで檀家・信徒に対応しているのは言うまでもなく住職の配偶者である。そしてその存在を思い浮かべるとき、われわれはその人が女性であることを前提としていないだろうか。現に、住職の配偶者のことを例えば「寺庭婦人」「住職夫人」と呼称するとき、明確にジェンダーを固定してしまっているのである。浄土真宗における「坊守」もまた住職の配偶者のことを示すが、浄土真宗本願寺派では2008年まで坊守を「住職の妻」と定め、女性が担うものとされていた。

私はこの場で住職やその配偶者の男女比率の不均衡について議論するつもりはない。より注目すべきは、寺院の運営と地域コミュニティーに対して、住職の配偶者に代表される寺族女性の存在がどのような効果を持つのかという点である。こうした寺族女性のはたらきを真に理解してきたのかを顧み、彼女らを含めた寺院と地域のよりよい関係を探っていくにはどうすればいいのかを検討する時がきていると私は考えている。

すでに40年ほど前から東京一極集中と地方の過疎問題が叫ばれ続けているうえ、現代では少子化に伴う人口減少社会に直面している。過疎化の進む地域において、寺院はコミュニティー維持の一助となっていることは、この一連の連載コラムをご覧いただければお分かりいただけると思う。今回はジェンダーという観点から過疎地域と寺院の関係について一歩踏み込んで考えてみたい。

住職の配偶者の「仕事」は多岐にわたる。これまで私が訪れた浄土真宗本願寺派寺院での話によれば、坊守の仕事は寺院境内の清掃や荘厳、参拝者や門信徒への対応や接待のみならず、僧籍を持つ坊守が法要や葬儀を執り行うケースも多い。寺院の責任役員ということで役員会議にも出席する。さらに自治会・町内会のイベントに参加したり子ども会や婦人会、地域福祉などの地域社会の役員を務めたりすることも多い。ここにさらに家族成員として家事や育児をこなしていることも想像に難くない。そのはたらきぶりに私のほうが目を回しそうになるような坊守の姿もよく見たものであった。

こうした坊守の「仕事」が、パートナーである住職のみならず周囲の門信徒や地域住民から当然のごとく期待され、受け入れられていることが、農山漁村地域の寺院の特徴であった。つまり、坊守が寺院のため・地域のためとはたらくのは当たり前であると周囲が認識しており、坊守もその期待に精いっぱい応えようとしているのである。

なかでも住職夫婦の地域社会のための活動参加は、農山漁村地域にとってコミュニティー維持の機能を果たす。地域住民たちが活発に交流し、結びつくことは、互いを信頼しあう暮らしやすい社会へとつながる。「地域のつながり」と言うと分かりやすいだろうか。コミュニティー維持には居住者数の維持や雇用機会といった経済的要因ももちろん欠かせないのだが、この「地域のつながり」の創出にこそ、宗教・宗教者の新しい価値を見出し、コミュニティーの維持・発展につなげようとする動きが昨今さかんに見受けられる。

「やっぱり、持ちつ持たれつだからね」。坊守に、地域社会で役員を担うのはなぜか? と尋ねた際、このような回答をいただいた。「お寺に来てもらおうと思うと、やはり地域のことにも協力しないといけない」のだという。もし地域の活動に参加しなければ、「お寺は“お高くとまってる”って言われてしまう」のである。ともすれば坊守らしからぬと思われかねないこの言葉にこそ、農山漁村地域における宗教と社会との関係性のリアリティーが表れている。

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