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2024宗教文化講座

中世日本研究所研究プロジェクトについて(2/2ページ)

中世日本研究所研究室長 パトリシア・フィスター氏

2020年9月4日 11時47分

景愛寺が火災にみまわれた時、幸いにも無外如大像は救出され、子院の宝慈院に移された。現在に至るまで宝慈院に祀られ、重要文化財に指定されている。京都市北部の眞如寺には、もう一体の無外如大像が祀られている。眞如寺は、13世紀後半に如大尼が師である無学祖元の菩提を弔うために創建した正脈庵と呼ばれる小さな寺院から発展した。その後、如大尼の遺灰も祀られ、正脈庵は夢窓疎石(1275~1351)によって広く大きく改築され、眞如寺とされた。

その法堂内に如大尼の彫刻肖像が祀られている。制作年月日は不明だが、1627年12月に修復された記録があることから少なくとも16世紀に、おそらくはそれ以前に制作されたと思われる。経年劣化が著しく早急な修復が必要。2022年までに完了する計画で、この6月から修復が始まった。この像は、如大尼の人格そのものと禅師として崇敬の対象であり続けたことを伝える重要な像である。修復は、仏像彫刻修復の専門である公益財団法人国宝修理所美術院によって行われる。

江戸時代初期、後水尾天皇の皇女で、宝鏡寺の住持であった仙寿院宮の菩提を弔うために、後水尾天皇が如大尼ゆかりの眞如寺を仙寿院宮の墓所とした。それ以降、眞如寺は宝鏡寺の菩提所となった。また、皇女尼僧のお墓と共に、江戸時代の門主の4体の肖像彫刻も法堂に安置されている。無外如大尼像をはじめ、尼僧像が計5体も祀られているのは、稀有で貴重なことである。

これらの尼僧肖像の1体は、宝鏡寺の中興である後西天皇の皇女、徳巖理豊(1672~1745)である。無外如大尼の遺徳を護り継承するために、彼女は如大尼に関連する資料を熱心に集め、漢文と平仮名の両方で、如大尼の伝記をまとめた。また、眞如寺の法堂内に如大尼の彫刻肖像を安置するための場所を増築し、諸々の仏具も寄進した。

今では如大尼についての歴史的事実がフィクションと混同しているので、歴史的な文書を再調査し、彼女の遺徳を適切に記録できればと考えている。研究チームには若手研究者にも参加を要請し、さまざまな分野の専門家でチームを編成し研究が行える体勢をとることを心がけている。私たちの調査は、京都の尼門跡寺院および歴史的に無外如大禅尼と関連のある寺院などに保存されている重要な資料と文書に重点をおいて行っている。

今後の目標として、無外如大禅尼に関する出版事業を行う予定で、学術論文、伝記、文書資料の翻刻や説明文、そして現存する肖像や関連付けられる袈裟などの画像を含む、如大尼に関する資料集(日英2カ国語)とする。無外如大尼の生誕800年である2023年までに完成するべく調査研究を進めている。

中世日本研究所は、このような尼門跡寺院や関係寺院などを多方面から支援している。修復事業推進のため、公益財団法人「文化財保護・芸術研究助成財団」の支援を受け「尼門跡寺院修復保存プロジェクト」を二十数年前に立ち上げた。修復事業は、文化財保存の観点に留まらず、協力者支援者を募ることで文化継承の大切さを発信し、また修復に不可欠な技術者やその材料などの供給者の育成と継承にも繋がる大変重要な事業であり、研究との相乗効果も大である。そして何よりも、何百年と護られてきた歴史の証が、後世においても、現代の私たちと同じように享受できるためにも重要であり、中世日本研究所が修復事業に取り組む所以である。

文化の象徴としての尼門跡寺院が、この時代に消滅してしまえば永遠に失われてしまう。文化力の指標としても尼門跡寺院が存続していくことを願い、日本国内及び国際社会においても認知されるよう、多くの方々や組織と連携しながら活動を継続している。

中世日本研究所のホームページアドレスはhttp://www.chusei-nihon.net/

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