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宗教学者はオウム事件から何を学んだのか―地下鉄サリン事件から25年⑨(2/2ページ)

上越教育大大学院助教 塚田穂高氏

2020年11月20日 11時03分

さらに、地下鉄サリン前日にオウムが行った島田の元自宅マンション入り口の爆発物事件がある。これは島田が攻撃されることで、教団が疑われないための陽動作戦として行われたものであった。

利用する教団と利用される「宗教学者」。もちろん、根本的に「悪い」のはオウムだ。だが、そこには明らかな共存・互恵関係があったのであり、あまりにも迂闊、無自覚な振る舞いが進められたのだった。

驚いたのは、当時の中沢なり島田なりを批判する宗教学者らからの言説が、管見のかぎり見当たらなかったことだ。当時はSNSやブログなどもなく、まともな研究者なら眼前の動きを雑誌メディアなどで軽薄に語るのに慎重になる、というのもわかる。だがそれでも、対抗言説が視えないことで、「宗教学者が言っていること」として流通してしまった。その意味では、斯界の構造的な問題だったとも言える。

さて、事件後の宗教学者は、何をしたのか。1996年の「宗教と社会」学会では、ワークショップ「『宗教』としてのオウム真理教」が開かれ、多角的な検討がなされた(書籍化は残念ながら頓挫)。その後、慎重にオウムを分析した諸論考も出され、先述の「カルト問題」研究へとつながった。しかし、オウムとその後については蓄積されていったが、「オウム事件と宗教学者」の方はどれほど問われてきただろうか。

2001年、島田は『オウム』を刊行した。500ページ超の大著で、事件と自らを総括したものとされる。だが、よく読むと、サリンプラントを錯誤した問題は論じていない。自分へのバッシングは統一教会を批判しなかったせいだと理解しており、また自らの問題を宗教学一般の方法論の問題に帰責させている。

事件後の25年の中で、やはり後継団体の問題は注視しなければならない。特に上祐史浩率いる「ひかりの輪」は、本連載④の中山尚「オウム後継団体の現在」に詳しいが、教えと団体の生き残りをかけて、団体規制法の観察処分はずしに躍起になっている。

並行して、協力者・理解者探しが行われている。私の前任校には、同団体から「研究者等の皆さまの御研究にできるだけ御協力させていただく所存ですので、ご要望がございましたら、ご遠慮なくお申し出ください」との手紙が来た。そこには、同団体が協力・対応した宗教学者や大学名が列記されていた。このようなものを他教団から受け取ったことはない。

鎌田東二は、科研費の報告書論文で、10年間の同団体の活動を見て、「(オウムの)危険性と問題点を自己反省的・総括的に批判」していると評価している(「身心変容技法と霊的暴力」、18年)。

大田俊寛は、同団体に全資料の開示と全質問への回答を求め、全教本類を読んだ上で、「かつてのオウム真理教のあり方に対する反省が、きわめて真摯かつ徹底した仕方で行われている」と評価した(「「ひかりの輪」の宗教的活動に関する私見(2017年の追記)」)。活動を評価する意見書も提出している。

それに応じて団体側は、「宗教学者2名…の方がひかりの輪の健全性を認める報告:長年の広範な調査研究の結果」(18年)と、喧伝している。

そのような中で、上祐が過去の殺人事件を隠蔽していたことが発覚した(『週刊新潮』18年7月19日号)。「徹底した」「反省」やら「総括」とは、いったいなんだったのか。鎌田も大田も結局は島田らの同型反復ではないだろうか。

接触や研究をやめるべきだ、などと言うのではない。「オウムと宗教学者」問題、ひいては「宗教者・宗教団体と宗教研究」の関係性のあり方、学術研究の特性と限界について自覚し、過信せず、言えることと言えないこととの「境界線」を弁えよ、ということだ。

そして同時に、眼前で起こっている問題に対して、行儀よく黙ったり、スルーをしないこと。「歴史」から学び、「また起こさない」こと。だから私は、SNSでも小稿であっても積極的に発信していこうと思う。「あの時、だれも声を上げなかった」とまた言われないためにも。しっかり声を上げていく斯界、宗教学界――宗教界でありたい。

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