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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

米国アジア系市民へのヘイト犯罪(2/2ページ)

武蔵野大名誉教授 ケネス田中氏

2021年6月17日 09時08分

我々は、自主性を高めることで被害者意識にも陥らず、更に自分が仏教的に成長するチャンスとして、この困難を乗り越えていきたいと考える。ただ、個人の内面的努力だけに留まらず、ヘイト的問題に関しては以下で述べるが、外へ声を上げることも必要と考えている。

抗議の声を上げる

アジア系市民は、他のマイノリティーにも目を向け、彼らと連携してお互いを助ける必要があると考えている。アジア系市民は、アメリカで生きていくためには「模範的なマイノリティー」(model minority)として、真面目に努力し人々と波風を立てないで生きていくことさえしていれば十分だと思ってきた者が多い。実際、このような生き方により、多くは社会的にも成功し比較的よい暮らしをしており、家族の収入額の平均は白人市民よりも上回っている。

ただ、このようなことから、アジア系市民は黒人やヒスパニック等のマイノリティーとは一線を引きたがり、「自分たちは彼らとは違う」という意識を強く持つ者が多くいることも否定できない。このようなメンタリティーは、1950年代のアメリカの南部で、白人と黒人の公衆飲料水機がまだ別々に設置されていた時代に、アジア系市民が、白人と同じ飲料水機を使用できたことから、白人から差別されなかったことを大喜びしたことにも象徴される。しかし、これは、被害者から距離を置く仏教的な精神ではないと思う。

では、今の私たちは仏教徒として、このような状況にどのような行動をとることが好ましいであろうか。我々は、もっと酷い組織的人種差別(institutional racism)の対象になってきている黒人の立場にも理解を持ち、彼らのためにも声を上げるべきなのである。もちろんアジア系の中には、既にそのような行動をとってきた人々はいるが、多くは直接関係ないという行動や態度をとってきた。この度、自分たちアジア系市民が差別の対象になったことを契機に、我々仏教徒は仏教の精神からも他のマイノリティーが被害に遭うときにも、一緒に声を上げるべきだと思う。

当然、声を上げることは社会的変化をもたらすことにつながる。従って、前述した「被害者意識」を持たない生き方を追求することはミクロのレベルの課題で、実は、他人が苦しむ差別にも目を向けて声を上げることを我々のマクロのレベルの課題として取り組むべきなのである。そのためには、多くの人の努力が欠かせないことは言うまでもない。アメリカでアジア系ヘイト犯罪を防止する法案が、今年の4月末に可決されたが、これは日系上院議員であるハワイのメイジー・ヒロノ氏のリーダーシップの下で多くの人々が賛同し、この差別に人種を問わずに皆で声を上げたところが大きい。ヒロノ氏は日本生まれのアメリカ育ちの仏教徒でもある。

釈尊も社会における差別に声を上げている。その一つは、ひどい差別を象徴するカースト制度である。その根本姿勢は、「人は生まれによって尊いのではなく、行いによって尊いのである」(『スッタニパータ』1ー136)という有名な釈尊の言葉に表れている。釈尊は、下層階級シュードラ出身のウパーリを快く僧侶として受け入れ、45年の伝道活動生活の中でも、差別にとらわれなかった。そもそも、「差別」も「平等」も本来仏教用語であり、偏見にとらわれないことを促す「無差別」と「平等観」は仏教徒の基本姿勢になるべきなのである。このような仏教精神が理由となり、今日インドでは、アウトカースト出身の仏教徒が何千万人に上る驚くほどの数となっている。

日本社会にとっての意義

日本では、人種間の問題はアメリカほど深刻ではないが、今後、訪れる観光客や日本で働く外国人の数の増加に伴い、差別問題が浮上することがあり得る。読者の皆様の大半は、日本人であり仏教徒であるので、日本社会ではマジョリティーの一員である。そのため、人種や宗教的差別は受けないであろうが、逆に差別する側に立つ可能性がある。従って、釈尊の精神を尊重し、自分の偏見を常に意識し行動することによって、より良い社会を築いて頂きたい。

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