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神奈川の仏像をめぐって(1/2ページ)

神奈川県立歴史博物館学芸員 神野祐太氏

2021年7月5日 09時53分
じんの・ゆうた氏=1985年、愛媛県生まれ。早稲田大大学院修士課程修了。専門は日本彫刻史。担当した展覧会に「特別展 相模川流域のみほとけ」。主な論文に「神奈川・松蔭寺所蔵銅造如来像(伝阿弥陀如来像)とその伝来」(『神奈川県立博物館研究報告―人文科学―』46、2019年)。
県民の仏像を見る目

神奈川県民は、仏像に対するハードルが低い。私が今の職場(神奈川県立歴史博物館)に着任してから感じたことだ。なぜなら、県内には源頼朝が幕府を開いた鎌倉があり、高徳院阿弥陀如来坐像つまり鎌倉大仏が存在しているからである。鎌倉大仏は鎌倉をイメージさせるアイコンとして観光・鉄道のポスターやグッズ等様々な媒体に登場し、日常の中に溶け込んでいる。

さて、神奈川県は中世都市鎌倉を有することから、鎌倉時代の仏像のイメージが強い。もちろんその筆頭には鎌倉大仏が挙げられよう。もう一つは鎌倉時代に活躍した日本彫刻史上最も有名な仏師運慶の造った仏像が2件知られることだ。1件は横須賀市・浄楽寺の阿弥陀如来及び両脇侍立像、不動明王、毘沙門天立像があり、もう1件は横浜市・光明院の大威徳明王坐像である。それらは、鎌倉を中心として横浜市金沢区、横須賀市と三浦半島寄りにある。それはちょうど国指定重要文化財の彫刻作品の所在地が鎌倉周辺に集中していることとも重なる。そのためか他の地域に伝わる仏像については研究者や一部の愛好者をのぞくと一般的にはそれほど知られていない。神奈川県では、鎌倉大仏と仏師運慶、場所としての都市鎌倉、時代としての鎌倉時代が注目されがちである。小論では県内の彫刻悉皆調査、近年の展覧会、研究動向を述べながら、鎌倉以外の地域にも古代から近世にかけて魅力的な仏像が多数存在することを紹介したい。

県内の彫刻悉皆調査

神奈川県の各自治体が実施した彫刻の悉皆調査は、昭和40年代と全国的にみても早い時期に始まっており、調査報告書や市町村史の中にまとまった報告があるのは全33市町村のうち、25以上を数える。最近では2018(平成30)年に『津久井町史』文化遺産編が出版された(津久井町は相模原市緑区の一部)。神奈川県では50年以上仏像の調査が継続的に行われている。それらの調査には各自治体の文化財担当者とともに、彫刻史の研究者たちが大勢携わっており、当館の歴代の彫刻担当学芸員も参加している。調査時に作成した調書は各自治体だけでなく当館にも保管され、写真技師が参加している場合には、撮影した画像についても当館で保管されている。

特別展「相模川流域のみほとけ」

そのような調査の成果は、自治体史の編さんや調査報告書で発表されており、一部は特別展等で出品されているが、まとまった地域の仏像が一堂に会するような特別展はあまり開催されてこなかった。そこでこれまでの調査の成果を継承する形で、20年に相模川流域の自治体(相模原市・平塚市・厚木市・茅ケ崎市・海老名市・座間市・寒川町・愛川町)に伝わる仏像を紹介する特別展「相模川流域のみほとけ」を開催した。この地域は、古代の相模国府(平塚市)、相模国分寺(海老名市)、相模国分尼寺(同)が造営され、相模国の政治や文化の中心であった。

これらの自治体では、彫刻の悉皆調査が実施されており、仏像の所在や様々な情報を把握することができる。ちなみに国指定重要文化財に指定されているものは4件あり、そのうちの海老名市・龍峰寺千手観音菩薩立像と茅ケ崎市・宝生寺阿弥陀如来及び両脇侍立像の2件の出品がかなった。

これらは本特別展の中心となる仏像で、いずれも戦前から知られており、龍峰寺像は国宝(国宝保存法)に指定され、宝生寺像は重要美術品に認定されていた。改めて調べなおしてみると、意外にもまだ議論の余地があると感じた。特に龍峰寺像は、製作年代が鎌倉時代とされていたが、より古い年代に造られた可能性があるのではないかと考えるようになった。

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