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第22回「涙骨賞」を募集
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阿弥陀仏、あるいは超越なき生成の力(1/2ページ)

早稲田大法学学術院教授 守中高明氏

2022年1月17日 09時19分
もりなか・たかあき氏=1960年生まれ。早稲田大法学学術院教授。浄土宗専念寺住職。著書に『浄土の哲学 念仏・衆生・大慈悲心』(河出書房新社、2021年)、『他力の哲学 赦し・ほどこし・往生』(同、19年)など多数。

法然・親鸞・一遍へと受け継がれ、深化し徹底化されていった日本中世浄土教――その思考と〈信〉を現代社会において真に実効性をもつ変革の力として甦らせるために、私たちはなにを考えるべきか。

現代の日本社会における浄土教についての一般的理解がどのようなものであるかは、容易にまとめることができる。浄土教とは西方極楽浄土への「往生」を説く大乗仏教の一形態であり、死後にこの現実世界とは隔絶した彼岸に往き生まれることを教えの中心とし、そのための手段として念仏を位置づけ、それを称える人間を阿弥陀仏という同じく現実世界には不在の超越的存在が摂取しその慈悲深い心で浄福を授けてくれると考える、そんな宗教であるというのが広く共有されている図式であるだろう。今日の世俗化社会にあって、それは端的に神話的世界観の表現であり、それを前にして問われるのはその非―現実的な物語を信ずるか信じないかという選択だけであると言ってよい。

だが、そのような理解に立つとき、私たちは浄土の教えをたんなる精神的ないし心的領域における救済論に矮小化することになる。なぜなら、そのとき私たちは近代的な理性の範疇と前近代的な説話の範疇とを区別したうえで、後者をそれが想像界にもたらす平安と慰めにおいてのみ肯定し顕揚していることになるからだ。そして、なるほど現代社会が宗教を許容するのは、その効果が精神的―想像的なものであるかぎりにおいてだと言える。すなわち、宗教が現実的な力をもつことは現代市民社会において望ましいことではなく、宗教者の側がその教えをみずから無力化することと社会の側がその教えの無力さを前提とすることが共犯関係にあり、その帰結として宗教の無害な安全圏への囲い込みが生じているというのが今日の状況である。宗教が現実的な力をもつとき、それは――宗教的原理主義に対する社会の警戒に現れているように――危険だと見なされるのである。

しかし私たちは、このような区別、このような境界画定に甘んじていてよいのか。否、法然が「凡夫」往生を約束したとき、親鸞が「屠沽の下類」との連帯を宣言したとき、そして一遍が「他力称名に帰しぬれば、自他彼此の人我なし」と断言したとき、それらの言葉が社会の現実を見据えたものであり、そのヒエラルキーや差別や搾取の諸構造を打破する根本的変革の意志に貫かれていたことを忘れるべきではない。この偉大な宗教家たちにとって、その〈信〉は社会秩序とその常識、その規範化する通念に抗う闘い以外のものではなかった。だが、そうだとすれば、現代の私たちが打破すべき常識・通念はどこにあり、どのような構造をしているか。

超越への欲望とそれに起因する人間中心主義を解体すること――最重要の賭札はそこにある。そして、浄土教におけるその具体的課題は、なによりもまず阿弥陀仏を超越的〈一者〉と見なす通念的理解を突き崩すことに存する。実際、阿弥陀仏を西方十万億土の彼岸にいる存在、それもキリスト教における人格神イエスと同じような唯一の超越者と見なし、それを人間的形姿によって表象することは、今日最も広く行われており、教団としての浄土宗における公的教義さえもそのような理解を支持している。しかし、これは完全な誤謬、しかも日本浄土教をキリスト教と同じ一神教的構造をもつと人々に誤解させその教えを神話的物語に縮減する点で、きわめて大きな弊害をもたらす根本的に誤った認識である。

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