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古代チベット、貨幣の萌芽期(2/2ページ)

インド・ニンマカレッジ客員教授、浄土宗高徳寺住職 矢田修真氏

2022年10月21日 13時59分

これにより金は吐蕃の上層の共通通貨になった。例えば『賢者喜宴』には、ソンツェン・ガンポが文字を創作するため「トンミ・サンボータに黄金、財物などを与えて天竺に派遣した」と記されている。吐蕃の大使が唐王朝に婚姻を提案するため長安に行った時には「文成公主を迎えるための結納金として金五千両を贈った」とも言われている。この本にはまた「斗いっぱいの金粉」「金粉一升」という文字も見られる。『敦煌本吐蕃歴史文書』の編年史の部分には、「申年(708年)には平民に対する黄金の租税の徴収が多かった」とあり、民間でも黄金を通貨として使用していたことが分かる。

吐蕃王室の贈与品は金貨

8世紀、ティソン・デツェンの時代、吐蕃は河隴地区(現在の甘粛省東部)を占領し始め、唐に奪還されるまでこの地区を統治していた。ここに暮らす唐人は、吐蕃王国の支配下に住んでいるにもかかわらず、依然として唐朝の銅貨を使用していた。『賢者喜宴』によると、吐蕃は金と銅を使った「通仄」という貨幣を大量に使っていた。「通仄」は中国語「銅子」の音訳である。

唐の宮廷では、黄金での貨幣鋳造が盛んに行われており、大きさと形状は制銭(銅銭、穴あき銭)と同等だった。例えば、開元通宝金貨、特に鎏金(金メッキ)の開元通宝の数は最多だった。唐王朝の宮廷では、外国人に黄金で鋳造した貨幣を授与する習慣があり、吐蕃の使者にも恩賞を与えた。吐蕃の使者は黄金製の制銭を持ち帰り、チベット語の古い書籍の中に「通仄」は黄金で鋳造されたという記載がある。

唐は正式な通貨として銅貨を使用したが、銀が、特に大量の取引の支払い手段では、金に次ぐ主要な通貨としての機能を果たした。吐蕃と唐の取引は非常に頻繁に行われたため、吐蕃は唐の制度の影響を強く受けた。金のように主導的な地位は占めなかったものの、銀は吐蕃の通貨として使われた。ただ地域によっては依然として物々交換をしたり他の種類の等価物を使用することもあった。

多くのチベット語の歴史書には、吐蕃王室は金貨を贈与品としていたという記載がある。例えば『西蔵王統記』には「王が金貨5枚を与えた」とあり、『漢蔵史集』には「100枚の金貨を携帯」などの記述がある。しかしこれらの金銀貨幣は吐蕃の鋳造ではなく、他の地域からのものであると考えられる。吐蕃王朝時代には通常は砂金が使用されていた。

茶葉と馬の取引に銀使用

唐の会昌2(842)年、ランダルマ(ツェンポ・ダルマ)は兵を増やすため、青年が出家して僧になるのを禁止し、寺院を養う荘園や、そこに属する百姓を接収することで国税を増やした。これが原因となり、ランダルマは僧に殺された。それ以後、王室は混乱、辺将(辺境を守る将軍)は混戦し、奴隷や市民があちこちで蜂起した。吐蕃の奴隷制度が崩壊し、チベットは封建的割拠の時代に入った。

チベットの封建的割拠の時期に対応して、中原地区(中央平野地域)では、晩唐、五代、北宋、南宋と王朝が移り変わった。この時期こそ、銀が徐々に貨幣的機能を担うようになった時代であった。宋代に至るまで、チベット人と漢人との貿易、特に茶葉と馬の取引規模が日増しに拡大した。馬を売買する所は非常に多く、『宋史・兵志・馬政』によると「売買するには4尺2寸以上ある必要があり、その馬は銀40両に値し、1寸高くなるごとに銀10両増しとなり、60~70両で取引される馬もあった」とある。『宋会要輯稿・兵』には「蕃漢の商人は、一人当たり50~70、ないし100頭の馬を集め、これを一券といった」とある。チベットと漢の貿易の規模の大きさをうかがい知ることができる。

チベット人商人は、特産品や馬と引き換えに銀を得て、茶葉やその他の品物を仕入れて余った銀を持ち帰った。チベットに流入する銀は日に日に多くなり、ほどなくして通用する貨幣の一種となった。『西蔵王統記』に、グゲ王のラマ・イェシェウーが仏法を高揚させるため、臣下に黄金を携帯させてインドに遣わし高僧を迎えたとあり、『ミラレパ伝』『タントンギャルポ伝』には金や銀を使用したという記載がある。封建的割拠の時代、チベット地区は依然として黄金を正式な貨幣としていたが、すでに金と銀を併用する段階に入っていた。

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