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《宮沢賢治没後90年㊦》音と声に導かれて(1/2ページ)

詩人 佐々木幹郎氏

2023年10月10日 09時40分
ささき・みきろう氏=詩人。1947年、奈良県で生まれ大阪府で育つ。米国ミシガン州立オークランド大客員研究員、東京藝術大大学院音楽研究科音楽文芸非常勤講師を歴任。詩集に『蜂蜜採り』(書肆山田、高見順賞)、『明日』(思潮社、萩原朔太郎賞)、『鏡の上を走りながら』(思潮社、大岡信賞)など。評論集に『中原中也』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『アジア海道紀行』(みすず書房、読売文学賞)など。『新編中原中也全集』全6巻(角川書店)責任編集委員。

宮沢賢治の詩に「原体剣舞連」がある。賢治の詩に親しんでいる人なら、代表作の一つとして、現在の奥州市江刺の原体集落(当時の「原体村」)で行われていた「剣舞」(念仏踊り)のことで、「連」というのは「社中」の意味を持つということが分かるだろう。だが、わたしは10代の頃、最初にこの詩に出会ったとき、詩句が奏でる音と掛け声の圧倒的な響きに魅せられながら、題名を何と読めばいいのか、とまどった記憶がある。「原」を「げん」と読んでしまったりしていた。

「剣舞」という岩手県の民俗芸能そのものを知らなかったからだ。頭に黒い羽根を飾り、腰に刀を差し、手に扇を持ち、8人から10人の踊り子がチームを作って、激しく舞いながら回向供養をする。笛と太鼓と鉦が鳴り響く。

各地域によって舞い方や衣装は異なり、その村落の名が「剣舞」の上に付いて、今も踊り続けられている。

賢治の詩には、どの作品にも天と地を結ぶ祈りの声が基層にある。日本の近代詩に多い、自分の内面を緻密に描こうとする方法とは無縁だ。いや、そもそも彼は自分の書くものが「詩」であるとは思っていなかった。自分以外の自然の樹木や草にも「魂」が宿っていて、それぞれ異なった領域にありながら呼応して宇宙を構成している、というのが賢治の重要な考え方であり思想であった。その思想を歩くように描いたものを、わたしたちは賢治の詩と呼んでいるのである。

詩「原体剣舞連」には、「mental sketch modified」(修飾された心象スケッチ)という副題が付されている。この詩が収められた『春と修羅』(1924〈大正13〉年、関根書店)の「序」に、「これらは二十二箇月の/過去とかんずる方角から/紙と鉱質インクをつらね/(すべてわたくしと明滅し/みんなが同時に感ずるもの)/ここまでたもちつゞけられた/かげとひかりのひとくさりづつ/そのとほりの心象スケツチです」とあるのだが、詩ではなく彼が「心象スケッチ」と呼んだ作品群の一つ、「原体剣舞連」の場合、他と違ってなおも、「修飾された」という言葉を添えたということ。このことがとても興味深い。

ともあれ、「原体剣舞連」の冒頭は次のように始まっている。

dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
 こんや異装のげん月のした
 鶏の黒尾を頭巾にかざり
 片刃の太刀をひらめかす
 原体村の舞手たちよ
 鴾いろのはるの樹液を
 アルペン農の辛酸に投げ
 生しののめの草いろの火を
 高原の風とひかりにさゝげ
 菩提樹皮と縄とをまとふ
 気圏の戦士わが朋たちよ
 青らみわたる顥気をふかみ
 楢と椈とのうれひをあつめ
 蛇紋山地に篝をかかげ
 ひのきの髪をうちゆすり
 まるめろの匂のそらに
 あたらしい星雲を燃せ
 dah-dah-sko-dah-dah

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