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2024宗教文化講座

《浄土宗開宗850年④》現代語で読むブッダと法然のことば(1/2ページ)

浄土宗総合研究所研究員 石田一裕氏

2024年2月9日 14時01分
いしだ・いちゆう氏=1981年生まれ。大正大大学院仏教学研究科博士課程修了、博士(仏教学)。久保山光明寺(横浜市南区)住職。インド部派仏教を研究しつつ、仏典の翻訳研究にも携わっている。著書に『現代語訳「浄土三部経」』(共訳)、『The Three Pure Land Sutras』(共編)など。
仏典現代語訳の潮流

この四半世紀でパーリ語仏典の研究は飛躍的に進歩した。特に現代語訳されたパーリ語経論の刊行は、さまざまな碩学の努力の結晶であり、また日本における仏教学の英知を示している。

ニカーヤと呼ばれるパーリ経蔵の翻訳は、いまも続く片山一良の一連の仕事が見事であり、また中村元監修となる『原始仏典』についても森祖道や浪花宣明が編集を担当し、数多くの訳者が力をあわせている。さらに村上真完、及川真介による『仏のことば註』や『仏の真理のことば註』などアッタカターと呼ばれる註釈文献も翻訳された。

これまでパーリ語仏典を日本語で読むためには、『南伝大蔵経』を紐解く必要があった。1935(昭和10)年から6年の月日で刊行されたこの叢書は、当時の日本におけるパーリ学会の隆盛を示すものであるが、現代を生きる我々にとっては、少し文章が読みづらい。昨今の現代語訳化はその難点を解消し、パーリ語仏典に広く触れる機会を提供するものとなった。

仏典現代語訳の潮流はパーリ仏典のみに限らない。戦後、様々なサンスクリット語経典が翻訳され、近年も『維摩経』や『法華経』などの現代語訳が刊行された。論書ではアビダルマコーシャ(『倶舎論』)の現代語訳がおおむね完了した。

筆者が所属する浄土宗総合研究所でも、現代語訳研究が長期間にわたり進められている。その成果として『法然上人のご法語』①~④、『【現代語訳】浄土三部経』、『【現代語訳】法然上人行状絵図』が刊行され、また善導『観経疏』の翻訳もほぼ終了した。浄土宗の基本典籍は『浄土宗聖典』全6巻としてまとめられているが、そのうち半分以上が現代語訳されたことになる。

釈尊のことばと法然のことばの接点

筆者はこの状況のなかで同研究所の「釈尊聖語の広報・布教用現代語訳研究」プロジェクトの主務(研究責任者)を担当している。この研究では基本的にパーリ語聖典を読解し、掲示伝道用のキャッチフレーズを作成して、それに解説文を付す作業をすすめている。解説やキャッチフレーズは、浄土三部経や法然の言葉を参照しつつ、浄土宗的な観点から作成を試みている。

この研究の目的は釈尊のことばと法然のことばの接点を見出し、解釈の方向性を与えることにある。というのも現代語訳でさまざまな仏典が読まれる機会が増えると、当然、読み手はそれらの関係を考えるようになるからだ。

もちろん仏教学の研究者は、パーリ語やサンスクリット語の仏典、その漢訳、また日本で書かれた注釈書などを、時系列を無視して扱ったりはしない。例えば日本の法華信仰を研究する者にとって重要なのは、サンスクリット語のサッダルマ・プンダリーカではなく、鳩摩羅什によって翻訳された『妙法蓮華経』である。その研究は梵文を離れ漢文になることで生み出された思想を扱い、またインドを起源とする仏典が日本に与えた影響を考えるとてもダイナミックな研究だ。

研究者は注意深く仏典を扱いながら、それぞれの領域において研究を進め、各々が仏教全体に思いを馳せ、長い時間をかけ、広い地域に流布した仏の教えの深淵さに触れるのである。このように研究者はさまざまな言語を駆使しながら、厳密に仏典を読解していく。

それでは現代語訳しか読まない仏教徒はどう仏典と向き合うだろうか。言い換えると、現代の日本語によって仏教を知り信仰する人々が、現代語でさまざまな仏典を読むとどんなことが起こるだろうか。

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