PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

語り継がれるもうひとつの神武天皇陵(2/2ページ)

成城大教授 外池昇氏

2024年2月29日 09時10分
文久の修陵とその後

順序からすれば、この後に文久の修陵に際しての孝明天皇の「御沙汰」により「神武田」が神武天皇陵とされ、それと同時に「塚山」は神武天皇陵ではなくなったことになる。ところがその「御沙汰」には、「丸山」も粗末にしてはならないと付記されていた。「丸山」は決して全否定されたのではなかったのである。そしてその「丸山」への関心は明治に入っても止まなかった。そのことは幾つかの史料によって確かめられるが、ここではまず陵墓の考証書を多く著した大澤清臣の『畝傍山東北陵諸説弁』(明治11〈1878〉年)をみる。そこには「猶いかにそやと疑ふ人もありとか」と未だに「神武田」の神武天皇陵に疑問を持つ向きがあるとしたうえで「黙視もえあらて先輩の考説の要を撮出て其の当否をかつ/\弁へて」とし、神武天皇陵「神武田」説が正しいことを学者の説を引きつつ述べる。このことは当時「丸山」説がなお根強かったことをかえってよく示すものである。次に橿原神宮の第7・11代宮司菟田茂丸『橿原の遠祖』(昭和15年、平成28年に橿原神宮庁により覆刻)から引く。同書は明治12~13年頃のこととして、「畝傍山東北陵(引用註、神武天皇陵)を山麓の桜川をへだてた平地に御治定になつてから未だ日も浅く、御陵の御所在については、一方に畝傍山東北陵の中腹、丸山塚(引用註、「丸山」のこと)の主張者の熱意も、まださめてゐない折柄でありました」とする。つまり、神武天皇陵が「神武田」に治定された文久3年から17~18年経った後でも、「丸山」を神武天皇陵とする考えは消えていなかったというのである。

私は、このことをこれまで「丸山」説を唱えていた本居宣長や蒲生君平等の著作の説得力やその高い知名度によるものと考えていた。そして先日、講談社選書メチエから刊行された『神武天皇の歴史学』でもそのように書いた。もちろんそれはそれで極めて妥当な結論なのではあるが、今度は、土地の歴史や地理を世代を越えて語り継ぐ山本村や洞村の人びとに焦点を当てて史料を読んでみようと思うようになった。

具体的にみてみよう。まず「神武田」についていうと、「神武田」「じぶの田」が「民」「所の人」「下方」による呼び方だというが、それは実際にはどのようなことなのであろうか。「神武田」「じぶの田」とはいかにも神武天皇を想起させる名称であるが、その由来はどこに求められるのであろうか。そして「丸山」についていうと、とにかく名称が大いに変転する。すなわちすでにみた通り、『陵墓志』は同地を「字カシフ」とするとともに「土俗今御陵山ノ名ヲ知ル人ナシ」とし、『玉勝間』は「字加志」と、『山陵志』は「御陵山」と、『卯花日記』は「白土のハナ」「岩鼻」とする。『打墨縄』は「字丸山」とするとともに「今其御陵山ヲ尋ヌルニ知人ナシ」とするのである。

いったい「神武田」とされた地はどのような人びとによって「神武田」「じぶの田」と呼ばれていたのであろうか。またそれはなぜなのであろうか。そして「丸山」とされた地はどの名称が正しいのであろうか。あるいはもともと正しい名称などなかったのであろうか。まさにこれらの疑問は、今後の神武天皇陵の研究にとっての新たな課題である。

《「批判仏教」を総括する⑥》縁起説と無我説を巡る理解 桂紹隆氏10月17日

「運動」としての批判仏教 1986年の印度学仏教学会の学術大会で、松本史朗氏が「如来蔵思想は仏教にあらず」、翌87年には袴谷憲昭氏が「『維摩経』批判」という研究発表をされ…

《「批判仏教」を総括する⑤》吉蔵と如来蔵思想批判 奥野光賢氏10月14日

一、はじめに 私に要請された課題は、「『批判仏教』再考 三論学の立場から」であったが、にわかに「再考」する用意はないので、三論学(三論教学)の大成者である吉蔵(549~6…

《「批判仏教」を総括する④》批判仏教と本覚思想批判 花野充道氏10月9日

1、本覚思想と本迹思想 プリンストン大学のジャクリーン・ストーン教授は、拙著『天台本覚思想と日蓮教学』のレビューの中で、「近年、批判仏教として知られる運動(the mov…

戦争に抗議する グローバル市民社会の未来(10月10日付)

社説10月16日

人口減社会と宗教の役割 地域の人々の心をつなぐ(10月8日付)

社説10月10日

AIの進化の方向 「人間」の領域との関係(10月3日付)

社説10月8日
  • お知らせ
  • 「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
  • 論過去一覧
  • 中外日報採用情報
  • 中外日報購読のご案内
  • 時代を生きる 宗教を語る
  • 自費出版のご案内
  • 紙面保存版
  • エンディングへの備え―
  • 新規購読紹介キャンペーン
  • 広告掲載のご案内
  • 中外日報お問い合わせ
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加