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第22回「涙骨賞」を募集
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良寛の観音信仰(1/2ページ)

元東洋大学長 竹村牧男氏

2024年8月19日 11時08分
たけむら・まきお氏=1948年、東京都生まれ。東京大大学院印度哲学博士課程中退。専攻は仏教学、宗教哲学。東洋大名誉教授、元東洋大学長。著書に『唯識・華厳・空海・西田』『道元の〈哲学〉』『新・空海論』『良寛 その仏道』等。

良寛は観世音菩薩を深く信仰していたと思われる。それには、母・秀子(おのぶ)の影響も大きかったようである。小島正芳(全国良寛会会長)は、『良寛の生涯と母の愛』、「あとがき」において、次のように述べている。

「良寛が光照寺から、国仙和尚に随って岡山県倉敷市玉島の円通寺に旅立つとき、母は木製の観音像を手渡したという。良寛が土佐を諸国行脚していたとき草庵のうちに「ただ木仏のひとつたてる」(近藤万丈『寝ざめの友』)とあるのが、母が贈った観音像であったと想像される。良寛が亡くなった時、枕元には、木製観音像と枕地蔵が残されていた。良寛は、生涯大切に観音像を持ちつづけていたのである。」(『良寛の生涯と母の愛』、「あとがき」、44~45頁)

良寛の母は、佐渡相川の橘屋の出身で、その橘屋の菩提寺は、真言宗豊山派の大乗寺であった。その観音堂に、秀子の伯母のおそのらは、千手観音像や十一面観音像を寄進しているという。おそらく秀子もまた、観音菩薩の篤信の信者であったのであろう。

良寛の『法華讃』

そうしたこともあって、良寛は純朴に観音菩薩を信仰していたと思われるが、良寛は徹底して禅道を修したのみでなく、もとより学究の人でもあった。ゆえに観世音菩薩のことも、相当深く研究している。観音菩薩について説く仏典と言えば、すぐに『法華経』「観世音菩薩普門品」が想起されよう。良寛に『法華経』各品に漢詩の讃をつけた『法華讃』という作品があることはかなり知られてきたと思われるが、もちろんそこで「観世音菩薩普門品」にも、いくつも讃を置いている。

その最初に出る「西方安養界を捨つるに慣れて」で始まる讃の中では、『楞厳経』の説に拠って、観世音菩薩が最勝の菩薩であることを明かしている。さらに、次の讃が見られる。

「月、素影を堕とし、雲破るる時、水、碧波を畳ね、風来たり始む
 永夜静かに倚る、宝陀の岸、人道に応身す三十二」

『法華経』では、観世音菩薩は三十三身に示現することが説かれているのに、良寛はなぜ三十二身と言ったのであろうか。これも実は、『楞厳経』に基づくものである。同経に、「是名妙浄三十二応入国土身」(大正19巻、129頁上)等とある。そのように良寛は観世音菩薩について、『法華経』だけで満足せず、他の教説をも広く研究していたことが知られる。

さらに良寛は密教系の観音菩薩にかかわる経典をも読んでいたことは確実である。良寛に「十心」を書いた、メモのような断簡も残っている。「大慈悲心、平等心、無畏心、空観心、無著心、無雑乱心、無見処心、卑下心、供敬心、無上菩提心」と書かれているもので、これは実は、『千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経』(『千手経』)である。すなわち同経には、「観世音菩薩言、大慈悲心、是平等心、是無為心、是無染著心、是空観心、是恭敬心、是卑下心、是無雑乱心、無見取心、是無上菩提心、是当知、如是等心、即是陀羅尼相貌。汝当依此、而修行之」(大正20巻、108頁上)とある。順序がやや異なっているが、内容はほぼ一致していることが確認される。

そのことを、最近の拙著『良寛 その仏道』(青土社)に指摘したのだが、良寛に観音菩薩への十願六向偈等を写した書が複数、残っていると伝えられていることについてはふれなかったので、ここにそのことを補っておきたい。その出典も、今の『千手経』である。紙数の関係で、今は願の部分のみ延べ書きにしよう。

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