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同志社大所蔵「二条家即位灌頂文書」を読む(2/2ページ)

同志社大人文科学研究所嘱託研究員 石野浩司氏

2025年7月17日 09時50分

観智院「御即位印事」(金剛蔵聖教第一三八箱第十八号)には『二条殿御文書』から引用した即位法の相伝「九条道家→勝信(道家の子)→若宮僧正信忠(九条忠家の子)」が見える。慈円「転輪王位七宝潅頂」(天台古伝の一字金輪呪「ボロン」型)が何故に「勧修寺型の即位法」として勧修寺流に相伝されたかを説明するためには、この慈円に繋がる九条家出自の勧修寺14世「勝信」・16世「信忠」の名前が重要になる。勧修寺長吏は第18世から法親王が入室する宮門跡となり、隨心院が摂家門跡となって第27世「尭厳」九条尚実(1717~1787)に到る。

(五)九条尚実による改変の可能性

還俗した「尭厳」九条尚実の存在は、延享元(1744)年、桜町天皇による返伝授に影響したと考える。実際、古層の即位法は智拳印「ダキニ+金剛界大日明」「ダキニ+胎蔵界大日明」の順で結誦する(二条家文書〇一五「御即位秘法」)。ところが桜町天皇「即位潅頂切紙」(二条家文書〇〇一)は智拳印「ダキニ+胎蔵界大日(五阿明)+金剛界大日(普賢一字明)」に復元される。おそらく「初金後胎」から「初胎後金」への改変は、「一字金輪明(ボロン)」を含めて、九条尚実つまり隨心院「尭厳」の密教的な背景「隨心院流(摂家門跡)が兼伝する勧修寺流(宮門跡)」の影響が想定されるからである。

そもそも灌頂儀式で両部(胎蔵界と金剛界)を行ずる場合、両部合行の作法は延命院元杲『具支灌頂式』(一夜式)・三宝院勝覚『伝法潅頂新撰式』(三巻式)以来「初金後胎」に治定され、醍醐方(三宝院憲深方はじめ理性院・金剛王院・地蔵院・松橋流)はこれを通則とする一方、広沢方や中院流は「初胎後金」を用いる(大山公淳「事相学序説(下)」1935年)。いま許可印明を例にとれば、醍醐方は大日印明を「初金後胎」に授けるが、隨心院流の許可(伝法初重印信・許可灌頂印信)は勧修寺流と通用で「初胎後金+蘇悉地」である(続真言宗全書『三十六流大事』)。

(六)桜町天皇宸翰「即位灌頂切紙」の形成過程

橋本政宣『近世公家社会の研究』(2002年)は二条宗基「即位灌頂覚帳」(二条家文書〇三〇)をもとに「阿」を「アア」と読むのが口伝だというが、正しくは二条昭実「又秘説」(二条家文書〇一七)が胎蔵五阿明の長母音を失伝しているのに対して「長母音にするよう指示した」のが宗基のメモした桜町天皇の口伝である。真言は七遍であるから、荼枳尼天呪「ヲン・ダキニ」に続けて、胎蔵五阿明「ア・アー・アン・アク・アーク」+普賢一字明「バン」+一字金輪明「ボロン」の一印七明に復元される。

〈第一印信〉〇〇一
即位灌頂
智拳印、右ノ大指ト頭ノ端ヲ合セ環トナシ、左ノ頭指ヲ握レ
真言七反「唵 拏吉尼 阿」口伝

〈第二印信〉〇〇二
智拳印、金剛界大日如来印
此ノ印、陰陽和合シテ天地ヲ掌リ、仏法王法一致シテ四海ヲ統領スト
真言「荼(財宝ヲ持チ)枳(障碍ヲ除キ)坭(栄花ヲ開ク)」

つまり、胎蔵五阿明を結誦することで、まず天皇は胎蔵大日の等流法身(万物に遍在する大日如来の顕現、法身如来が等同流類の身となって衆生を救済する姿「マンダラ最外院のダキニ」)となり、ついで普賢一字明を結誦することで独一法界の尊である金剛界大日に変身、最終的には高御座に着座して一字金輪明を結誦することにより蘇悉地(妙成就)に到り、金剛界大日と同相のまま胎蔵大日の日輪三昧に住して両部不二の仏身を顕得する。空海『即身成仏義』が分斉する三種成仏のうち「顕得の成仏」にあたる(長谷宝秀『即身義玄談』)。

第一印信は二条昭実「又秘説」(二条家文書〇一七)を素材に天台即位法「七道領掌」を七種子に要約したもので、第二印信には東寺即位法のダキニ釈義も「御即位秘法」(二条家文書〇一五)から継承されている。

おわりに
 以上、桜町天皇宸翰「即位灌頂切紙」の形成過程を復元的に考察した。ここに示した即位灌頂「切紙」こそが、幕末までの近世天皇によって実修されていた即位灌頂の実体である。かかる延享元年の桜町天皇「返伝授」の主体は九条尚実にあり、その密教的な資質と方向性において「初胎後金」の勧修寺型「智拳印+ボロン」に改装された蓋然性を提起しておきたい。

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