【戦後80年】被団協ノーベル平和賞受賞の歴史的意義(1/2ページ)
龍谷大名誉教授 武田龍精氏
核兵器がもたらす全人類破滅は、われわれが己れ自身の生老病死を思惟する時、直面しなければならない個人の希望・理想・抱負・人生設計などの終りであると同時に、人類がこれまで何千年という歴史の中で蓄積してきた民族遺産・国家遺産・世界遺産をひきつぐ未来の世代の希望と抱負を完全に断ち切ってしまう出来事である。
さらに核のホロコースト以後は遠い未来までも、救いがたい放射能汚染という不毛状態が残されるだけである。それはまさしく地球規模の生老病死といえよう。
およそ2400年以前にインドにあらわれた釈尊が解脱の対象として悟られた生老病死の根源的苦である教説には、核のホロコーストがもたらすような地球規模の生老病死は宗教的範疇として想定されてはいなかった。核兵器の時代がもたらすであろう、全人類の新しい歴史的状況のうちに含まれている最も重要な宗教的意義あるいは宗教的特徴にわれわれはそれほど注意を払って来なかったのではあるまいか。
われわれは有史以来、戦争と平和を何度も繰り返してきたが、試練と辛苦の茨の道を歩んできた背景には、多くの人々の寛容と忍耐のなかで営まれてきた共同・共生の実践活動があった。それらすべてがこの文明社会で行われ、意義が見いだされ価値を持って来た。その文明社会が、それを生み出してきた人類自らの手によって壊滅してしまうという危機的可能性を含むアイロニー的事態は、現在のわれわれが行うあらゆる営みの存在論的意義を真剣に考えようとする将来構想のうちに否応なく介入するであろう。
核兵器による地球破滅にはいかなる仏教的意義があるのかを考えてみたい。それはまさしく地球の生老病死である。しかし、われわれの生老病死の場合とは根本的に違う。われわれの生老病死の場合は、ある意味で自然現象の一刹那であるともいえる。
しかしながら、核兵器によっておこる地球の生老病死は、太陽の銀河体系自らによって引き起こされる地球の宇宙的自然現象としての生老病死ではない。それは人間の手によって核分裂・核融合の原理が発見され科学技術の進歩によって発明された核兵器を人工的な武器として使用して、ついに地球を死へと人為的に追いやることであって、人類の自殺行為以外の何ものでもない。
しかも、それは単に人類だけが自殺するのではなく、あらゆる生物体系から自然環境体系までを、人類のエゴによる自殺行為の道連れにするのである。人類のエゴは、仏教的視点から見るならば、地球を人類の私有財産として「わがもの」化していることを意味する。それは地球の自然現象に逆らう行為以外の何ものでもない。それは顛倒であり、虚偽であり、虚妄であり、虚妄分別による結果以外のなにものでもない。
ここにわれわれは二重の生老病死の体系があることに気づく。一つは先ほど述べたわれわれ自身の一生の生老病死のプロセスである。すなわちミクロ的生老病死である。もう一つの体系は今述べた地球の生老病死のプロセスである。すなわちマクロ的生老病死である。
これら二重の生老病死は別々に分かれて別個にあるのではない。まさしく一つの生老病死である。ミクロ的生老病死もマクロ的生老病死も、根元的な苦であることにおいては一つである。その同一の根こそわれわれ一人ひとりの心深くに存在する阿頼耶識である。
二つの生老病死が根元において一つとなっている根元的な苦からの解脱こそ、大乗仏教が最終的に求めている涅槃、すなわち生老病死からの解脱であり、親鸞浄土仏教における横超断四流にほかならない。四流とは一般的には四暴流を指すが、親鸞は特に生老病死であるという。横超こそ、阿頼耶識の苦(無明)が仏の悟りの智慧へと転廻・転換することである。
私は一人の浄土真宗をいただく被爆念仏者として、私自身の生老病死と根源的に一つとなっている核のホロコーストによる地球の生老病死の現事実を、80年前のヒロシマで体験した被爆という、今も昨日のごとく想い出される記憶の中で厳しく見つめつつ、できる範囲で、まばゆいほど美しく輝くこの青い惑星地球上から核兵器をすべて撤廃しなければ、けっして真の世界平和はありえないことを強く訴えていきたい。
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