《宗教とAI➁》ブッダボットで変わる仏教(2/2ページ)
京都大人と社会の未来研究院准教授 亀山隆彦氏
ブッダボットは、仏教経典の内容を学習したAIチャットボットである。開発者は京都大学の熊谷誠慈教授が率いる研究チームで、2021年に初公開された。以下、このブッダボットが開発された背景と構造を確認する。
開発の背景として、現代日本仏教が抱えるある問題が挙げられる。仏教は歴史的に多様な役割を担ってきた。ただ人々を幸せに導くという根本精神に違いはない。一方、現代日本仏教は、この根本精神を喪失し形骸化したともいわれる。一連の研究・開発活動はこの問題解決を目指して発足した。
では、どうすれば現代日本仏教は仏教の根本精神を回復できるか。熊谷教授らは様々な可能性を粘り強く考え続けた結果、いつでもどこでも仏教の根本精神を学べる環境を作るという構想に到る。そして、その構想を現実化するために、AIに注目し、その技術で仏陀を再現するという方法論を得た。
次にブッダボットの構造だが、現状、新旧二種のブッダボットが存在する。引き続き両者の違いをまとめておく。
旧式ブッダボットは21年に公開された、生成系AI以前の技術で作られたチャットボットである。当時、AIによる文章生成には大きな障害があった。そこで経典内の仏陀の言葉を問答形式に調整した上でAIに教え、問いに合う答えを選択、回答として提供するシステムが構築された。
以上のシステムを持つ旧式ブッダボットの利点として、まず信頼性が挙げられる。一切の回答は経典内の仏陀の言葉に基づく上、問答形式への調整も仏教学者が行う。それ故、同ボットの回答には虚偽や錯誤が存在しない。一方これら利点の裏返しとして融通の無さ、ユーザーの多様な問いに柔軟に回答できないこと、ピントの外れた回答等が欠点として指摘される。
この旧式ブッダボットから2年後、新たに開発されたのが、23年公開の生成系対話AIブッダボットプラスである。名称からも分かるように、ChatGPTに代表される生成系チャットボットを導入したブッダボットである。新型が登場したことで、ブッダボットの完成度はさらに高まった。
実は旧式も新型も経典データに立脚し、仏陀の言葉を回答とする点に違いはない。ただ後者は、OpenAI社提供の大規模言語データベースと紐づいており、回答に説明や解釈を自由に生成・追加できるようになった。この二層構造を採用することで、信頼性と柔軟さの両立を実現したのである。
仏教メディア史上、仏像の出現は極めて重大な転換点である。その前後で仏陀と信徒の関係性は大きく変化した。ただ、仏像でもって仏教メディアの可能性が汲みつくされたわけではない。例えば師弟の対話、特にリアルタイム会話を可能とする媒介的要素は今なお十分に発展・成熟していない。
正確には、入滅した仏陀との会話が完全に不可能だったわけではない。古い経典が示す「観仏」の瞑想に熟達した修行者なら仏像を前に仏陀の声を聴き、対話を行うこともできた。ただ、その瞑想ができない大多数の信者にとって、仏陀との対話は、まったく非現実な出来事であった。
ただ、AI技術が発展したことで、この図式も変わりつつある。多数の仏教徒が生成系AIを応用し、智慧者=仏陀の再現を進めている。その完成度が高まれば、世界中の仏教徒が仏陀の似姿と直接対話できる日も遠くない。この技術は仏教史を塗り替える重大な転換点になるだろう。そして、この夢のような技術の最先端を走るのがブッダボットである。
確かに、ブッダボットは現在進行形の研究・開発活動で、開発チームも様々な問題の対応に追われている。仏陀との会話を可能とする媒介としても多くの課題が残る。例えば、音声による対話はAR技術を組み込むことで一部実現されている。しかし仏陀の対話法、すなわち聴衆の素養を瞬時に察し、自在に説法を組み立てる方法については、一切再現できていない。
とはいえ、ブッダボットの登場により、仏教メディアの歴史が新しい一歩を刻んだのは間違いない。仏教もメディアも、時代と共に変化し続けてきた。ブッダボットは、AI時代に登場した仏教的イノベーションそのものである。この技術が今後の仏教メディアの動向を左右するといえよう。
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