《宗教とAI⑧》イスラム教におけるAI(1/2ページ)
岡山大学術研究院社会文化科学学域准教授 石田友梨氏
2017年にサウジアラビアは、人型ロボットの「ソフィア」に市民権を与えた。このニュースは、イスラム教を専門とする筆者がAI(人工知能)に興味をもつきっかけのひとつとなった。当時のサウジアラビアは、女性が車の運転をすることを認めていなかったため、女性の型をしたロボットであるソフィアに市民権を与える前に、人間の女性に運転をする権利を与えるべきだとの非難の声が上がった。
一方、ソフィアは髪や体の線を隠すための黒いヴェールで覆われていなかったが、サウジアラビアの女性にもヴェールを被らないで外出することを認めるべきだという批判は起こらなかったと記憶している。ソフィアには髪の毛がなかったせいかもしれない。
筆者が興味をもったのは、人型ロボットに対するイスラム教徒の受け止め方である。俗説では、イスラム教では人間の絵を描くことが禁じられているため、植物などを幾何学的に描くアラベスク(アラビア模様)が発達したとされる。しかし、教義を決定する組織をもたないイスラム教では、人間の絵を描くことの可否は、時代や地域、最終的には個人の見解によって異なる。
たとえばイランでは、イスラム教の開祖ムハンマドの従兄弟かつ娘婿のアリーが、ムハンマドの正統な後継者として崇敬されている。アリーの想像画が街中に貼られていたり、観光地のお土産物として売られていたりすることもある。また、イラン・イラク戦争などで戦死した若者が殉教者として建物の壁に描かれていることも珍しくなく、人間の絵を描くことが禁じられていないことは明らかである。ただし、ムハンマドの絵が描かれることはない。人びとが神よりもムハンマドを崇拝することを防ぐためとされる。
ムハンマドの伝記映画『ザ・メッセージ』(1976年)では、主役であるはずのムハンマドが一切画面に現れない。この方針はその後のムハンマドの伝記作品にも受け継がれ、子ども向けのアニメなどであっても、ムハンマドの姿は白くぼかされるなどの工夫がなされていた。
なお、『ザ・メッセージ』においては、アリーも顔が映されない。しかし、アリーは剣の先が二又になった特徴的な剣を持っていたとされるので、そのような剣が映ったらアリーが登場したとわかる仕組みになっている。
ムハンマド以外の人間の絵を描くことが禁止されていないのであれば、人間の形をしたロボットを作ることも禁止されていないのであろうか。前述のイランでは、小児科病棟の子どもたちの話し相手となる人型ロボット「アーラシュ」が開発され、アラブ首長国連邦では、アラビア語で会話をすることのできる世界初の人型ロボット「イブン・スィーナー(アヴィセンナ)」が開発されている。
これらの例から、禁止はされていないようであるが、教義の裏づけを確認したかった筆者は、イスラム教の法学者に質問してみることにした。
法学者は、イスラム教の聖典コーラン(クルアーン)や生前のムハンマドの言行録(ハディース)などを学んだ教義解釈の専門家である。イスラム教の教義の解釈は個人により異なると述べたが、人びとは有名な法学者の見解を参考にしたり、法学者の誰かに相談したりすることが一般的である。近年では法学者の見解をまとめ、検索できるようにしたサイトもある。このため、疑問に思ったら検索して解決することができるようになったが、過激で偏った意見に染まってしまう危険性も指摘されている。
さて、筆者はオンラインで質問を受け付けているサイトから、人型ロボットの開発は教義上禁止されないのか尋ねてみた。すると回答は、教義上認められる目的のために使用されるのであれば認められるし、認められない目的のために使用されるのであれば認められないとのことであった。人型であるかどうかよりも、使用目的が重視されるようである。




