禅に学ぶ精神分析 無意識と絶対無…西村則昭著

フランスの哲学者ジャック・ラカン(1901~81)の思想を用いて禅を読み解くという新しい視座から、西洋の哲学や精神分析では捉えることのできなかった本来自己の存在の真相に迫る。
ラカンは人間の存在を三つの次元「象徴界」(言語活動の次元)、「想像界」(イメージの次元)、「現実界」(物自体、身体それ自体、存在そのものの次元)で捉えた。幼児期は現実界とつながっていたが、「父の名」を受け入れることで母親との分離を経て、この三つの次元を統合的に生きるようになる。その一方で現実界は覆い隠されて生きるようになるという。
著者は「夢や症状を生み出す無意識の奥には、ラカンのいう現実界、物自体の次元がある。現実界とは、通常われわれが言語を用いつつ、言語に執われることで、そこから乖離してしまう次元である。その現実界を禅の教えにしたがって、よくよく検討してみると、そこには大乗仏教が見据えていた絶対無が見出される」と説明する。
前半はラカンの思想を中心に哲学や精神分析を解説。後半は『景徳伝灯録』や『碧巌録』『臨済録』などから、禅の祖師らの言動を精神分析、哲学の分野を用いて、禅の思想に新たな解釈を加えている。
定価3520円、法藏館(電話075・343・0458)刊。