高楠順次郎と近代日本…武蔵野大学高楠順次郎研究会編

近代日本を代表する仏教学者・高楠順次郎(1866~1945)の多分野にわたる功績について、様々な視点から多角的に考察し、その全体像を明らかにしようとする一冊。日本における近代仏教の礎を築いた文献学者であり、女子教育の拡充や『大正新脩大蔵経』の編纂など先駆的な事業に取り組んだ高楠の実像に迫る。
高楠は近代日本の仏教史を語る上で避けることのできない存在だが、その功績は学術だけでなく教育、出版、社会科学など多方面にわたるため、従来の高楠研究は限定された視点からのアプローチによるものがほとんどだった。本書は、寄稿者それぞれが自身の専門とする分野の視点から高楠の業績を考察することで、高楠順次郎という人間の全貌を解明しようと試みた。
日野慧運・武蔵野大准教授は「文献学とは何か」という根本的な問いに立ち返り、文献学者としての高楠の実像を描く。日野准教授は高楠が仏典を本文批評の対象とし、校訂を行っていたにもかかわらず、その成果を公表しなかった背景にある高楠自身の文献学に対する思想について考察する。岩田真美・大阪大谷大教授は、高楠が展開した仏教精神に基づく女子教育について「母性」という概念を軸に検討を重ね、今後の課題を示した。
定価8800円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。