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韓国における卵子提供 ―「同病相憐」としてのエッグ・シェアリング(1/2ページ)

元南山大南山宗教文化研究所研究員 渕上恭子氏

2014年1月2日
ふちがみ・きょうこ氏=1959年、東京都文京区生まれ。慶応義塾大大学院社会学研究科博士課程修了。研究分野は、韓国・朝鮮の宗教、東アジアの生殖技術と再生医療。主要著書には、共著「韓国の生命倫理―代理出産の論点」『シリーズ生命倫理学第1巻―生命倫理学の基本構図』(丸善出版)、共著「韓国仏教の『水子供養』―日本系宗教の信仰実践にみる『救い』の位相」『ノマド化する宗教 浮遊する共同性』(東北大東北アジア研究センター)など。

2005年1月、韓国において卵子・精子の売買と利益供与を禁じた「生命倫理法」が施行され、親族等による無償供与以外の卵子の提供は禁止されることになった。とはいえ、韓国では、跡取りを産めないことは「七去之惡」として離婚の要件となり、親族からの提供が望めなければ、他人の卵子を買ってでも妊娠して子供を産むことを余儀なくされる。

情報化時代の今日、卵子を求める不妊女性とドナー志願者が、ネット上の「卵子売買カフェ」を介して裏取引をし、「遠縁」の者からの無償提供と偽って卵子売買を行っていることは周知の事実となっている。儒教の伝統の下で父系血統が重視される韓国では、「母」が必ずしも妻である必要はなく、ドナー卵子による子供であっても、夫の血を引く子が得られたら許容されることが、卵子売買の容認につながっている。

1987年10月、車病院女性医学研究所が、国内初の卵子提供による妊娠に成功し、翌年6月、アジアで初めて実の姉妹からの卵子提供による妊娠に成功した。発表にあたって、車光烈所長は、血縁が重んじられる韓国では実の姉妹からの卵子の提供が容易であることを挙げ、その医学的利点を力説した。それから25年を経た今日、韓国では例年300件に上る卵子提供が行われているが、これまで姉妹間の卵子提供にまつわる紛争が報じられたことはなく、近親者からの卵子提供が「純粋寄贈」として賞揚されている。

卵子ドナーの階層化が進む

韓国で卵子提供が開始された頃から90年代の初めまでは、韓国社会の血縁指向に依拠した、実の姉妹等をドナーとする卵子提供が推進されてきた。だが、その後韓国女性の晩産化が進んだことから、親族による卵子提供が適わなくなった。

周知のように、卵子提供に際しては、ドナーに侵襲を及ぼす施術を行わなければならず、卵子を提供してくれた女性が不妊症になったら、施術をした医者は道義的責任を免れ得なくなる。そのため、不妊治療医の間では、親族から卵子を提供してもらう場合は、結婚して子供を産み終えている女性にしか施術をしないことが不文律となっている。そうした中で、卵子提供が開始された1987年は26・4歳であった韓国女性の平均出産年齢が、「生命倫理法」が施行された2005年には29・1歳に上昇し、晩産化が顕著になった今日、卵子提供が可能な年齢で子供を産み終えている親族を探すのは容易ではなくなっている。また韓国では跡取り息子の出産が女性の義務とされていることから、男児を産んでいない人には卵子の提供を頼みにくく、親族からの提供がなおのこと難しくなっている。

1990年代に入って親族間の卵子提供が困難になってゆくものの、今日のように情報化が進んでいなかった当時の韓国で、非血縁者の中からドナーを探すのは容易でなかった。そのような状況下で考え出されたのは、「同病相憐」の精神の下に、不妊患者同士で治療費を分け持つことを条件として卵子を融通し合う「卵子の共有」であった。

だが、じきに「卵子の共有」は卵子売買に変貌し、90年代後半以降、急速な普及を遂げたインターネットを介して一般の人々に広まった。そして2001年1月に「DNA bank」社が設立されると、卵子売買は公然と行われるようになり、有名大学の女子学生を頂点とする卵子ドナーの階層化が進んでいった。

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