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宗教と公共性 ― 「善き生」実現へ積極的に議論を(2/2ページ)

千葉大大学院人文社会科学研究科教授 小林正弥氏

2014年2月6日

しかし、「何がコミュニティに共通の善か」ということは、特定の個人には判断できないことが多いから、関係する多くの人々によってこれについて熟議して決めていく必要がある。しかも、その内容は時代によって変わっていく。だから、このプロセスは永遠に続いていく。その意味において、共通善ないし公共善を求める政治は、「永遠のプロセス」なのである。

また、かつて公共性は国民国家の中だけで考えることも多かったが、今日ではグローバル化が進んでいるので、国民国家を超えた範域で考えることが必要だし、逆に国民国家より小さな地域における公共性も再び重要になっている。だから、公共性をグローバル・ナショナル・ローカルという多層的な公共性として考えることが必要になっており、このような公共性を「グローバル」ないし「グローカル」(グローバルにしてローカル)な公共性と呼ぶことができる。

同じように、これまでは公共性を現在生きている世代において考えることが多かったが、今日では「過去(世代)→現在(世代)→将来(世代)」という時代的な流れを念頭において、超世代的な公共性を考えることが重要になっている。たとえば、原発問題は、現在世代のエネルギー問題としてだけではなく、核廃棄物問題が将来世代に対して甚大な害悪を及ぼす危険性があるという観点からも考察する必要があるのである。

宗教と公共世界

このように今日では公共性を、国家や「官」の垂直的な視点から解放して、人々の水平的な観点から捉えなおし、時空間的に広い観点から考える必要性がある。さらに、宗教との関連においては現象的な世界に限定された世俗的な視点からだけではなく、超越的視点からも把握しなおす必要があろう。コミュニタリアニズム的な観点からは、「善き生」や美徳との関連で公共的な正義を考えることが必要であるが、このためにも超越的視点は重要な役割を果たしうるのである。

どうしても、通常の人々は自分たちの利害に左右されがちであり、自分が住む国家の観点や、現在の世代の利益に縛られて意見を述べやすい。これに対して、超越的視点からは、狭い個々人の利害や時空間的に限定された視座を超えて、時空間的に全体的な、俯瞰的観点や永遠の視点からの見方を提起することができる。だから、宗教的な観点からの議論が公共的な世界をより良いものにするために重要なのである。

リベラリズムの観点からは「政教分離」が強調されて宗教的観点からの政治的議論はあまり積極的に要請されないが、政教分離は本来は特定宗派や教団と国家との結合を排するという意味だから、これに反しない限り、宗教的・超越的観点からの公共的議論は重要な役割を果たしうるのである。特に、超宗派的な観点からの政治的な発言や活動は、政教分離という原則から見ても大事である。

原発問題では、主として脱原発の方向に向けて宗教界からの声明や発言が多く見られた。戦後日本においては、一部の宗教団体や宗教政党を除けば、宗教的団体からの政治的発言はそれほど多くは見られなかったので、これは注目に値する現象である。また、続いて、秘密保護法や憲法問題に関しても、やはり宗教的な観点からの発言が現れているように思われる。これらの問題は、これからの日本の針路に大きな影響をもたらすと思われるので、このような流れが加速していくことが望ましいだろう。

歴史的には、たとえば織田信長が一向一揆や本願寺勢力を屈服させたり、秀吉や家康がキリシタンを弾圧したりしたこともあって、日本の宗教は政治的発言や行動に消極的な姿勢を持つことが多かった。しかし、戦後の政治学者・丸山眞男が述べたように、民主主義にとって「非政治的市民の政治的関心」に基づく、「『在家仏教』的政治活動」は大きな意味を持つ。

宗教的な人々が政治的活動に消極的だった反面として、一般に政治家や政党は宗教団体を票田と見る傾向が強く、その宗教的な観点からの見解そのものを真摯に傾聴しようという姿勢に乏しかったようにも思われる。しかし、超越的視点は、上述のように私的な利己主義的意見や国家や現在世代に限定された狭い考え方から解放して、より高く広い観点からの議論を公共的に提起する可能性を持つ。それは、より善い公共世界を実現するために有益だろう。そのために、宗教的な観点から、上述のような意味における超党派的な公共的発言や行動がさらに活発になることを望みたい。

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