PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座 第22回「涙骨賞」を募集

自殺問題での宗教者の役割 ―「ゲートキーパー」に最適(2/2ページ)

U2plus代表 東藤泰宏氏

2014年5月30日

しかし、日本のゲートキーパーにはどこに行けば会えるのだろうか。政府は「国民が皆ゲートキーパーであるべき」と目標を掲げる。しかし、実際に深刻な悩みを持つ人が、どのようにしてゲートキーパーと接触できるかは、明確に示されているとは言えない。

内閣府のゲートキーパー養成用の動画は全て合わせて「11分」である。このあまりに短い時間のトレーニングで、誰かの生死に関わることができるのだろうか、という疑問もある。

また全国でゲートキーパーが何人いるのかも不明確だ。「ゲートキーパーのバッジ」などがあるのだが、バッジをしている人を求めて街をさまようわけにもいくまい。

この問題に対して、私は「宗教者がゲートキーパーとなるべきだ」という主張をしたい。根拠はその資格の妥当性、アクセスの明確さ、人口ボリュームの三つだ。

圧倒的多数の葬送儀礼を主宰する宗教者であれば、その一人一人が日常の中で、各自の信仰に基づく死生観を持っているであろう。それは数分の解説動画では補いきれるものではなく、職業倫理として自然と、かつ厳しく磨かれていくものであると思われる。

また、寺院は全国各地に散らばっており、その気になればほとんどの人が相談に訪れることができる。地域によっては、宗教者が自分から各家庭に足を向けることも可能だろう。

とりわけ仏教では寺院が全国に約7万7千カ寺あり、それに倍する僧侶がいる。うつ病患者数約100万人、自殺予備軍約30万人(自殺者の約10倍とされる)に対して、しっかりと向き合うのに、十分な人数だ。以上の点から、ゲートキーパーとしてこれほど適した集団はないのではなかろうか。

もちろん宗教者が即座にゲートキーパーになれはしないだろう。ある程度のスキルや知識が求められるはずだ。精神疾患への知識、当事者との距離の取り方といったコミュニケーションの技法などの習得が必要になる。

前述したように、ほとんどの自殺者は精神疾患の診断があてはまる。このため、うつ病、アルコール依存症、統合失調症、パーソナリティー障害など最低限度の精神疾患について、基礎的な知識が求められるだろう。

また、相談者の深刻な悩みに対峙しつつも、その重さに引きずり込まれないような工夫が必要になってくる。例えば医師は医局での息抜きにより、患者と向き合うことができるという。臨床心理士はカウンセリングの時間を必ず区切ることで、距離をとる。死に関する相談を受けるNPOでは、対象者に必ずグループで向き合うという。その他に当事者に寄り添う「傾聴」というヒアリング技法なども含めて、医学や心理学から学ぶことは多いかもしれない。

さらに、病気以外の社会的な問題を扱う各機関へのチャネル(経路)が求められる。一部の意欲的な心療内科では、精神科医の他に、カウンセラー、キャリアカウンセラー、ソーシャルワーカーがいる。

ただクリニックへの経済的な負担が厳しく、一般的にはなっていない。自殺問題では、精神疾患だけでなく、自殺の危機要因となる、失業・生活苦・家庭問題・将来への不安などへの対応が求められるが、病院だけではなく宗教者にとっても、単独で処理できる問題ではない。

よって個別のケースに応じて、それぞれ専門的なNPOや弁護士、行政書士など、適切な相談機関へとつなぐ「ハブ」となれることが重要だ。

以上、勝手な提言をしたが、どのように感じられただろうか。Twitterやfacebookでぜひ感想を伝えてほしい。@toudou_U2plus

【戦後80年】被団協ノーベル平和賞受賞の歴史的意義 武田龍精氏9月10日

核兵器は人類の虚妄である 核兵器がもたらす全人類破滅は、われわれが己れ自身の生老病死を思惟する時、直面しなければならない個人の希望・理想・抱負・人生設計などの終りであると…

心肺蘇生の成功率を高めるために 森俊英氏8月7日

死戦期呼吸とは 近年、大学の新入生全員への心肺蘇生講習や、保育者および小・中・高校の教職者への心肺蘇生講習が盛んに実施されるようになりました。さらには、死戦期呼吸に関する…

同志社大所蔵「二条家即位灌頂文書」を読む 石野浩司氏7月17日

(一)即位灌頂の創始と摂関家 史実としての即位灌頂は、大嘗会「神膳供進作法」にまつわる五摂家の競合のなかで、弘安11(1288)年、二条師忠と天台座主道玄、文保元(131…

「追悼の日」の意義 将来の安心安全目指し(9月10日付)

社説9月12日

非道が過ぎるイスラエル パレスチナ国承認を早く(9月5日付)

社説9月10日

老いという円熟 健康習慣で人生を輝かせる(9月3日付)

社説9月5日
このエントリーをはてなブックマークに追加