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対話の重要性 必要なのは同意でなく承認(6月10日付)

2026年6月12日 09時28分

第2次世界大戦後、国際社会が構築してきた国家レベルでの平和理念や共存のための規範が大きく揺らいでいる。互いの歴史認識や自立自存の主張が食い違う場面で、会話による相互理解と合意形成の努力が有効かどうかに確信が持てなくなっている。これは国際関係や政治・経済上のことだけでなく、人間関係についても言える問題ではないだろうか。

価値観や世界観の異なる者同士がコミュニケーションを図る場合に有効なのは、互いの相違を棚上げして進める「会話」ではなく、相違を正面から話題にして互いを理解し合う「対話」であることを千葉大大学院教授の小林正弥氏が指摘している。「会話」は対話の入り口になる。しかし、価値観や世界観の相違が深刻な問題を引き起こしている現代にあっては、それを真正面から議論するような「対話」こそが重要だという。

また、精神科医の斎藤環氏は、歴史学者・與那覇潤氏との対談の中で、精神疾患を治療する際に愛情を持って治療に臨む姿勢は手放しでは歓迎できないと語っている。愛情は最終的に「相手との一体化」を望む感情なので、引きこもりや依存症から離脱しにくくしてしまう側面がある。ではどうすればよいかといえば、相手を「承認」すること。相手を自分とは独立した個人として尊重し「他者の他者性」を受け入れることだという。たとえ相手と価値観が違い、主張に「同意」することができないときでも、人には「共感」を通じて存在を承認してもらう権利があると述べている(『心を病んだらいけないの?』新潮選書)。

これは小林氏の言う「対話」にも通じる考え方である。「対話」は、相手の考えや価値観に「同意」できなくても他者を肯定し、受け入れ「承認」することで成り立つ。アメリカの政治哲学者マイケル・サンデル氏が提起する「コミュニタリアニズム(共同体主義)」は、平等な立場で議論すれば合意に到達すると考える合意形成理論を批判する。価値観や世界観の対立が大きければ簡単には合意できないし、無理に合意を目指そうとすると、かえって失敗する危険性があるからだ。

対話の目的は合意形成ではなく、他者の意見を聴くことであり、意見を傾聴して自分の考え方が広がったり深まったりするのが対話の意義だと捉える。無理に結論を導こうとせず、相手の意見の背後にある考えをよく知り、咀嚼することで、自分の新しい考えが形成される。現代世界はまさに「同意ではなく承認」を必要とする状況にあるのではないか。

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