能登で墓じまいが急増 人口減少社会への警鐘
大阪大教授 稲場圭信氏
令和6年元日の能登半島地震から2年半経過した。住宅やインフラの復旧が続く一方で、被災地では見過ごせない変化が進行している。「墓じまい」とそれに伴う改葬許可申請の急増である。毎日新聞(6月30日付)の調査によれば、輪島市、珠洲市、七尾市、志賀町、穴水町、能登町の6市町における改葬許可件数は地震前の2022年度と比べ24年度が4・9倍、25年度も3・7倍に達した。全国の改葬許可件数の増加が同期間で約1・1倍であるのと比較すると、突出ぶりは明らかである。単なる少子高齢化や人口流出による墓じまいの増加ではない。大規模災害が地域社会の基盤に深刻な変化をもたらしているのを示している。
背景には、被災地特有の複合的な要因がある。墓石の倒壊などで墓地そのものが深刻な被害を受けた。しかし被災者は住宅再建や生活再建を優先せざるを得ず、墓の修復にまで十分な資金や労力を割くことが難しい状況に置かれている。加えて、石材店への依頼集中や資材価格の高騰により、修繕の見積もりすら容易ではない。
寺院の本堂や実家が被災し、帰省時の拠点が失われたことも拍車をかけている。震災は、従来から存在した人口減少や高齢化による墓の維持不安を一気に顕在化させ、都市部への改葬や合葬墓への移行を加速させた。
だが、問題を単なる個人の墓の選択として捉えるべきではない。墓は遺骨を納める場所であるだけでなく、故郷との精神的な結節点でもある。遠方に暮らす出身者にとって、墓参りは帰省の重要な動機であり、地域との関係を維持する契機となってきた。墓じまいが進めば、その接点は失われる。お盆や彼岸に人が集う機会は減少し、地域外に暮らす人々とのつながりも希薄化する。結果として過疎化がさらに進み、被災地の復興を支える共同体の基盤を弱体化させる恐れがある。
寺院への影響も深刻だ。被災寺院の多くは本堂の損壊など甚大な被害を受け、自らの再建に苦慮している。さらに檀家の墓じまいが進めば経済的基盤は縮小する。さらに、持ち主と連絡の取れない墓や修復されない墓への対応など管理負担は増加する一方である。
墓じまいの増加は寺院の存続そのものを脅かし、地域文化や信仰の継承を困難にする。「墓じまい」が「寺じまい」へと連鎖する危険性がある。今後、人口減少と高齢化が進む全国各地で同様の災害が発生すれば、同じ問題が起こる可能性は高い。平時から墓の所有者情報や将来の意向を確認し、無縁墓化を防ぐ仕組みづくりが必要である。また行政には、墓地や寺院を地域コミュニティー再建の重要な基盤として捉える視点が求められる。石川県による共同墓地の修繕支援や穴水町による墓石復旧補助は先進的な事例である。
墓地は地域の歴史や記憶、人々のつながりを支える公共的な側面を持つ存在である。能登で進行する墓じまいの急増は、人口減少社会における地域の存続を問い直す警鐘でもある。その教訓を被災地固有の問題として片付けるのではなく、全国的な課題として受け止める必要がある。






