PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

AI時代の人間性の擁護 宗教の公共的役割の指針も

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2026年6月17日 09時45分

教皇レオ14世が5月25日に発表した回勅『マニフィカ・フマニタス』はAIを主題とする文書で、アルゴリズムが人間の判断に大きな影響を与える時代に、いかに人間らしさを取り戻すことができるかという、カトリック信者にかぎらず、現代を生きる私たちに共通する問題を扱っている。

レオ13世は19世紀末に回勅『レールム・ノヴァールム』を出し、産業革命が生み出した労働問題に向き合った。今回の回勅は、世界規模で急速に進むデジタル化や権力の集中を、人間観そのものを変えうる文明的環境ととらえ、それがもたらす危険にどう対峙するかという難問に答えようとしている。

問題はもはやAIの使用に対する賛否ではなく、回勅は技術そのものを悪とはしていない。問われているのは、神を忘れた人間が、傲慢な態度で画一性と均質化を推し進めるバベルの塔を築くのか、それとも傷を負った各人が責任を分かち持ち、違いとともに共同することから生まれる調和によってエルサレムの城壁を修復するのかである。

技術は人びとをケアし、結びつけ、教育し、保護することもできるが、分断と排斥をもたらし、新たな不正義を生み出すこともある。技術は中立ではなく、開発者や出資者、管理者や利用者の顔を帯びる。効率性が価値の尺度になると、人間はその状況に自分を最適化してしまいかねない。

回勅はほかにも現代の情報環境や「真理」をめぐる問題、サイバー空間での衝突を含む国際情勢についても、強い懸念を示しながら、興味深い分析を展開する。

ライシテの宗教社会学の観点から言えば、この回勅には、ポスト・ヒューマンやポスト世俗と言われる現代社会における宗教の公共的役割のひとつの形が表われている。フランスのカトリックとライシテの専門家フィリップ・ポルティエは、『ル・モンド』紙で、教皇の議論は穏健な教会と可視的な教会を両立させるものと指摘する。

穏健というのは、教会が「地上の現実の自律性」を認め、社会制度がそれぞれの文脈で集合的生活の実践の原則を定める自由を追認していることを指す。つまり、教会はもはや世俗社会の生活規則を上から制定する野望は持たない。

他方、可視的というのは、宗教的信仰を親密圏の領域に押し込めようとする政治の拒否を意味する。つまり、宗教は私的領域に閉じこもるべきという主張には異を唱えるわけである。

ここには政治共同体と宗教共同体の区別を守りつつ、公共的役割を果たすという教会の姿勢が表われている。現代世界の世俗権力が、政治・軍事・資本の集中を進め、さらには宗教的な正当化をも図ろうとするのに対し、教会が人間の尊厳と共通善の観点から政教分離を説く批判的機能を果たしているように思われる。

結論部で引用されている言葉を自分に言い聞かせるように記しておきたい。「偉大な者たちの視線ではなく、別の視点を採用し、世界を下から、苦しむ者たちの目で見ること。歴史を権力者の視点ではなく、小さきものたちの目で見ること。歴史の出来事を、寡婦、孤児、異邦人、傷ついた子ども、亡命者、逃亡者の視点から解釈すること」

「疎死社会」のいのちの意味 死者との関係がはらむ深淵 弓山達也氏9月16日

本紙で報じた通り、先月公表された『2026年 築地本願寺不安調査』は、「多死社会」と呼ばれる時代に個々人が死と向き合う機会をむしろ失いつつあるという逆説を浮かび上がらせた…

ヴェール問題で割れるフランス国民連合とライシテの行方 伊達聖伸氏9月2日

2027年のフランス大統領選に国民連合(RN)前党首マリーヌ・ルペンが出馬する方針を表明した。欧州議会議員の公金流用事件をめぐり、昨年3月の一審判決では5年間の被選挙権停…

旧統一教会 解散命令確定 新たに見えた問題群 櫻井義秀氏8月19日

6月22日、最高裁第三小法廷は旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の特別抗告を棄却した。これで解散命令が確定した。 教団は、今年3月4日の東京高裁による解散命令の決定を、憲…

ガザの医師の訴え 「憎まない」平和への和解(9月18日付)

社説9月25日

批判する教皇 宗教者の発言の重さと期待(9月16日付)

社説9月18日

相互交渉の意味 AIの限界とケアの重要性(9月11日付)

社説9月16日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加