「多数」のおごり 一内閣で国の形を変えるのか(8月5日付)
政府主催の4月29日の「昭和100年記念式典」は異様だったようだ。政府からの申し出で天皇陛下がお言葉を述べる機会がなかった。天皇皇后両陛下を式典委員長の高市早苗首相ではなく、木原稔官房長官が案内した。首相の式辞は先の大戦をスルーし、戦後80年の話に終始した。海上自衛隊東京音楽隊の演奏は戦後歌謡ショーで、ロック好きの首相は合いの手を入れ、上機嫌だったらしい。
翌日、これも異例だが宮内庁から「過去の歴史から謙虚に学び、深い反省と平和を将来へつなげる努力が大切」という天皇陛下の感想が示された。国旗損壊罪の創設や皇室典範改正を控えた高市首相は、陛下のそんなお言葉など聞きたくなかったのだと識者はみる。政治評論家の寺島実郎氏は「310万人の日本人と2000万人を超すアジアの人々が死んだ戦争の総括は、安倍政権の『戦後七〇年談話』で十分とするかのごとく、戦後への手拍子で記念式典は終わった。このレベルの政治であることを示し、報道するメディアの劣弱さも明らかになった」(『世界』8月号)と指摘する。同感だ。民主主義は自由で注意深いメディアの存在を不可欠とする。だが、式典当日の主流メディアの報道は歴史への問題意識が抜けていた。高市政権の国会運営の乱暴は、その後一層加速した。
新皇室典範は、上皇さまと、その意志を継ぐ天皇陛下が築かれた戦後民主主義と共存する象徴天皇像を崩壊に導きかねず、国の形を変えるものだ。高市政権は、それをわずかな国会審議で強行した。当事者の天皇家の意見を聞くこともなかったという。SNSやネット動画を駆使し、瞬間風速的な時流に乗って多数を得た一内閣による皇室の伝統軽視は言語道断だ。
内心の自由に踏み込む国旗損壊罪の疑問も既に本欄で指摘した。
国民生活は異常な物価高に苦しみ、少子化と人口の東京一極集中で空洞化する地域は切り捨てられる。災害被災者は人権を守れない……問題山積の国柄に愛国心を迫る印象が強い国旗損壊罪には、反対者をあぶりだし、時代状況に不満を募らす人々による「反日」攻撃にさらして政権基盤を固める狙いが潜むという見方も耳にする。
厚生労働省が7月発表した国民生活基礎調査で「生活が苦しい」世帯が55%余、母子世帯は82%余にも上り、物価高騰が響いている。物価高は高市政権の財政規律の緩みに伴う円安が一因で、政権が目指す消費税増税も円安を助長すると批判がある。米国を巻き込んだ為替介入に批判回避の狙いは明確だが、主流メディアがそんな場当たり政治を可視化する努力を怠ると政権の暴走は止まらない。





