ヴェール問題で割れるフランス 国民連合とライシテの行方
東京大教授 伊達聖伸氏
2027年のフランス大統領選に国民連合(RN)前党首マリーヌ・ルペンが出馬する方針を表明した。欧州議会議員の公金流用事件をめぐり、昨年3月の一審判決では5年間の被選挙権停止を言い渡され、次期大統領選への出馬は困難と見られていた。ところが今年7月7日、パリ控訴院は有罪としながらも停止期間を短縮し、出馬への道が開かれた。
この間、RNはジョルダン・バルデラ党首で大統領選を戦う準備を進めていたが、今回の判決を受けて候補はルペンに戻った。興味深いのは、イスラームのヴェールについての2人の考えの違いだ。
ルペンは12年以来、公共空間全般でのヴェール着用禁止を主張してきた。一方、バルデラは以前からこの公約には慎重だった。24年、国民議会解散後に首相候補となった際には、ヴェール禁止を当面の政権公約から外した。今年4月のRN幹部たちの会合では、自分が大統領候補になる可能性が高まるなか、公共空間でのヴェール禁止そのものの放棄を提示した。ルペンはこれをただちに退けた。
バルデラが穏健派でルペンが強硬派というわけではない。RNの党勢拡大にともない、ヴェール禁止の党是がムスリムの潜在的支持者を遠ざけていると考える者も出てきた。また、全面禁止の実施は現実的ではない。一方、ルペンは方針転換のリスクを避けたい。今年1月の『ル・モンド』の調査ではRN支持者の94%、フランス人全体でも66%が公共空間でのヴェール禁止を支持している。
そこでルペンは国民投票に解決策を見出そうとしている。国民投票なら国民自身が決めたと正当性を主張することができる。また、憲法院も国民投票で成立した法律については事後的な違憲審査を行わないことになっている。ヴェール禁止は憲法や欧州人権条約が保障する信教の自由との衝突という重大な問題を孕んでいるが、国民投票なら違憲審査を回避できる可能性がある。
さらにルペンは、大統領になったら出生地主義を廃止し、雇用・住宅・社会給付・公共サーヴィスへのアクセスに「国民優先」を導入するなど、移民に関する憲法改正案も国民投票にかける構想を示している。憲法89条が定める通常の憲法改正手続きを迂回し、11条による国民投票で実現しようとする姿勢には、憲法学者から強い批判が出ている。
問われているのはヴェールの是非だけではない。多数の国民が望むなら、少数者の信教の自由を国民投票で制限してよいのかという民主主義の根幹にかかわる問題が提起されている。ライシテとは本来、国家と宗教を分離し、国家の宗教的中立性を確保することで、各人の良心の自由と礼拝の自由な実践を保障する原則である。しかし、RNはライシテの名による自由の制限を国民投票によって正当化しようとしている。
大統領選に復帰したルペンと政権担当能力を意識するバルデラ。2人のあいだに浮上したヴェールをめぐる亀裂はRN内部の路線対立にとどまらず、27年大統領選におけるライシテの行方を左右する問題となるだろう。









