「来民開拓団」の悲劇 差別と侵略による棄民(8月26日付)
戦時中の日本の満州侵略と部落差別に鋭く切り込んだ朗読劇「夜のベンチ」(くるみざわしん脚本)が、教会や寺院を含めて全国各地で上演され、大きな反響を呼んでいる。
登場人物は熊本県旧来民町の被差別部落の人々。1940年代、国の戦争遂行のための食糧増産政策で旧満州(中国東北部)への「来民開拓団」としてまとまって入植させられた。
だが「広大な土地が持てて生活が豊かになり、向こうでは差別もないし、兵隊にも取られない」との役人の甘言にだまされて赴いた先では、軍に代わって侵略の手先として銃で地元の中国人を追い出し、その土地を奪う役割を押し付けられた。
しかし、ソ連が参戦し、日本の敗戦が迫ると守ってくれるはずの関東軍は逃走。追い詰められた開拓団の人々は8月17日、集団自決し、家屋に火を放って全滅させられた。大人たちは子供を手にかけ、老人は互いに刃で刺し違えた。総勢276人、その3分の2が幼子だった。
史実に基づいた劇は、3歳の娘や妻を燃え盛る家に残しながら、この惨禍と国策の残虐な結果を故郷の人々に伝えるべく、開拓団長に命じられてただ一人生き延び帰国した男の回顧の形を取る。
先般、京都・東本願寺で開かれた上演会では、劇中、男の悪夢によみがえる娘の炎の中からの叫び、「お父さん、どうして私は死ななくてはならなかったの? この問いこそが、本作の狙いです」とくるみざわ氏は強く訴えた。
この事件の著書があり劇制作に携わったジャーナリストのエィミー・ツジモト氏も「戦争だったから仕方なかったではない。ただ被害者だというのではなく、日本人全体がいのちをおろそかにした責任も考える必要がある。国内外が危うい状況になっている今こそ、彼らの犠牲の深い意味を広く語り伝えなければ」と訴えた。
そして、遠く熊本から会場に姿を見せた開拓団遺族会の森山英治会長は「差別に長年苦しんだ人々の気持ちを逆手にとって侵略に加担させた国の罪は重大です。土地を奪われる中国人の気持ちも開拓団員には分かっていたのに、戦争が両者を敵対させた」と静かに語った。
各地の同様の開拓団の惨劇の中でもとりわけ凄惨なこの棄民の歴史を語り継ぐため、地元では今も8月の命日に追悼の碑の前で合同慰霊祭が営まれている。それを主催する森山会長の「大陸へ送り出したこと自体が社会の構造的差別。そして、現在でもある差別を見逃したら、戦争につながるのです」との言葉が限りなく重い。









