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第22回「涙骨賞」を募集
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第22回「涙骨賞」を募集

生きる力~その先にあるもの~ ― 人生の価値、自ら深める(2/2ページ)

がん患者グループ「ゆずりは」代表 宮本直治氏

2014年7月18日

私にとって死は何なのか? その答えもクリニックで見つけた。見えてきたのは、私に答えは分からないのだということ。ならば私はそれを問いとしない。残された時間がどうであれ、いつか必ず死は経験できる。それなら今、思いを巡らせる時間がもったいない。

これを笑顔で語る力は昭和を代表する曹洞宗の僧侶、澤木興道老師の次の言葉から頂いた。直接お会いすることはできないが、見上げた空に老師の温もりを感じる。

よく死ぬことを心配する奴がある。「いや、心配するな。死ねる」

代表を務める神戸市のがん患者会では、戸惑い悩む患者が互いの声を聞き、同じ経験をした者同士で分かち合える空気感を大切にしているが、共感や癒やしのひと時で終わらせたくない。「他人や医療を当てにしないで下さい。誰にでも死は訪れます。この先、あなたの人生の価値を深めるのはご自身ですよ」と死をタブーとしない僧侶の立場で語る。

「病気になったおかげでこの患者会に参加し、いろんな深い話が聞ける。がんになったことがありがたく思えてきました」という会員の声は本当にうれしかった。患者会での経験を生かして、昨年10月に「宿坊で語り合うガン患者の集い」を鳥取県の本願寺派光澤寺で行った。その初日、ステージⅣの患者さんの言葉に息をのんだ。

「私は死について話すために来ました。今まで多くの患者会や病院のサロンにも通いましたが、死というものを真正面から話せる場所が無かった」。その思いに背筋が伸ばされた。この問題にお寺で向き合う必要性を再認識し、今年は大阪で「がんをご縁にいのちを考える会」の設立を目指している。「今のお前にできることがある。ただ歩め!」。そんな声がどこかから聞こえる。

よく考えてみると、幸せとは自分にとって都合のいいことが続く人生であり、どこまでも自分中心なのがわれわれの姿。母親を自宅で看取ったこと、阪神・淡路大震災、胃がんなどの私の経験は、人生の中で思い通りにいかないことなど幾らでもあるのだと教えてくれた。自分の意志と無関係に最期を迎えることも含めて、それら全てが自然であり、人には変えられない。だったら、この瞬間をどう生きるのか? それだけを自分に問い続ける。

2009年10月にNHK「こころの時代」で拝聴した長崎県の曹洞宗禅心寺・金子真介住職の言葉も、ずっと私を支えてくれている。いつの日か出会ってお礼を申し上げたいものだ。

人間のいのちは 一本のローソクに火をつけたようなものである。燃えながら照らしながら 刻々刻々と減ってゆく。

減ってゆくいのちを減らぬようにすることは誰にもできない。ただどこを どのように照らしてゆくか。これだけが人間に与えられた たったひとつの自由である。

振り返ると、今、行っていることをするためにがんになったとしか思えず、私の人生にがんは必要だったと笑顔で受け取っている。この先、再発・転移などのご縁に付き合わせていただく力も、自然に頂けることになるだろう。そして今、新たな声を感じている。

「がんという病気にかかるか、かからないかということも問題にはならない。たとえ見送られる側や看取る側だといって立場が違っていても、やがて逝く身であることには変わりない。この広い世界中で同じ哀しみは一つとなく、誰もが哀しみを背負って生きている。それが私たちのありのままの姿。どなた様もご自分にとって《本当に大切なもの》に気づき、育み、それをしっかり抱えて生きていただきたい」。その思いを胸に抱えながら、私は今を生きる。

「お前は、その人生で満足したのか?」という自分に対してだけ使うことが許されている最後の問いかけ。その問いに笑顔でYESを告げた後、私はお待たせしている親鸞聖人の元へと走り寄る。その時が次のステージの幕開けであることを信じて……。

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