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伝統仏教寺院の世代交代 ― 2030年のシナリオから見えるもの(2/2ページ)

「未来の住職塾」塾長 松本紹圭氏

2016年1月2日

問題は都市であれ地方であれ、変化から取り残された人たちの失業率の高さだ。労働力人口は少子高齢化の影響により15年で800万人減少。にもかかわらず、ニートの若者は60万人から70万人に増加した。運転手・農家・通訳・レジ係・配達員・コールセンター・経理・窓口担当・外回り営業など、技術革新によってここ数年で消滅した職業も少なくない。僧侶も読経専門職としては消滅の危機に瀕している。

以前から「お寺が減る」と言われてきたが、大幅に減ったのは僧侶だ。仏教に興味を持つ一般人は増えているが、いわゆる専業で生計を立てられる僧侶の数はかつての3分の1以下となった。

新時代の宗教者として研鑽を積んだ僧侶がリニアモーターカーで全国を股にかけて活躍する一方、変化に対応できなかった読経専門の僧侶は価格競争でしのぎを削る派遣企業の契約社員となり、縮小する儀礼市場で小さなパイを奪い合っている。他には、マインドフルネスと瞑想実践の指導を行う僧侶や、お寺の地域コンテンツを活かして宿坊&文化体験を提供する事業家僧侶などが、例外的に存在する。

数少ない住職常駐のお寺でも兼業率が高まり、世襲の要望も小さくなった。その結果、宗門大学へ進学する寺院子弟が減少。大学院のみに縮小したり、運営が廃止となった宗門大学もある。

求められるスキルや知識の専門性の高まりにより、お寺の運営形態もかつての家族経営型から、地域の複数カ寺を舞台に高度なサービスを提供する専門チーム型に変わってきた。結果、淘汰の中で生き残ったお寺の公益法人としての信頼性が高まり、社会貢献意識に基づく寄付の対象としてNPOと同列に認知され始めている。

かつて死者と生者を媒介する役割を一手に引き受けたお寺。しかし、様々な技術的進歩によって、亡き人を偲ぶ手段・装置も大きく多様化・高度化を遂げている。脳とインターネットが直接つながる世界で、お骨が唯一の記憶のメディアではあり得ない。ご祈祷よりも人工知能の判断に頼る人のほうが多い時代だ。死とは何か。人間とは何か。今、僧侶の本質が根本から問われている。

***

今年は浄土真宗本願寺派で大谷光淳門主の伝灯奉告法要が営まれる。伝統仏教寺院の世代交代というテーマにおいて最も大きな課題は、ずばり、寺院関係者の未来への想像力の欠如だと思う。そこで試みに、本稿ではある寺院の後継者が30年から現在を振り返るシナリオを描いた。あくまで私見だが、未来予測に関する各種資料を参考にしたので、描写は稚拙でも内容は荒唐無稽ではないはずだ。

未来は誰にも予知できないが、予測はできる。現在すでに明らかな事実を基に複数のシナリオを描き、来るべき未来へ万全の備えを施すことは、寺院の護持発展に責任を持つ住職の重要な役目だ。未来の住職塾でも、多様なシナリオのケーススタディーから混沌とした時代の変化を的確に捉え、お寺を次世代に確実につなぐ羅針盤となる寺業計画を策定し、志を同じくする仲間と共にその実現に向け推進している。ぜひ読者の皆様にも、自坊の未来のシナリオを具体的に描いていただきたい。

最後に、南直哉老師(青森県・曹洞宗恐山菩提寺院代)が当塾に寄せてくださったメッセージを引用し、結びとする。

「住職」がテーマの塾であるということは、いわゆる「伝統教団」に関係する人々が主たる塾の対象者であろう。

ならば、申し上げる。

「伝統」はともかく「前例」に従う限り、「教団」にも「住職」にも「未来」はない。これからは、今まで何をしてきたかが問題なのではなく、前人未到の領域(人口減と経済縮小、でなければ移民による多民族社会)に住職としてトライ・アンド・エラーで分け入っていく勇気と忍耐こそが必要だろう。未来の住職塾は、その「試行錯誤」の「試」として重要な意義があると、私は思う。

それにつけても言いたいのは、「住職」である以前に、自分が「僧侶」であり「仏教者」であることの意味を根底から問い直す作業が、今後不可欠だということである。僧侶だから住職にもなれるのであって、住職になるために僧侶になってはならない。少なくとも「未来」は。

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