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「近代仏教」と「仏教天文学」再考 ― 近代日本の宗教≪12≫(2/2ページ)

天理大教授 岡田正彦氏

2017年7月28日

占星術や天気予報

仏教科学から近代仏教へ

1980年代から続けてきた梵暦研究の成果をまとめて、2010年に拙著『忘れられた仏教天文学―十九世紀の日本における仏教世界像』(ブイツーソリューション)を刊行し、少し梵暦研究から離れるつもりであったが、むしろ各方面から多くの情報が寄せられるようになり、全国各地に現存している須弥山儀(須弥山説を基盤として制作された、精密な天体運行時計)の調査結果や東芝の創業者として知られる田中久重の著名な和時計の連作と梵暦運動の関係などについて、新たな論文を3本ほど発表することになった。

地球や太陽系の概念を否定して、円盤状の須弥山世界の実在を主張するというアナクロニズムにもかかわらず、円通の『仏国暦象編』は決して無知の産物ではないということは、実際にこの書を読み、円通の広い学識と議論の緻密さに触れれば誰でも分かるはずである。

それと同様に、須弥山説にもとづく須弥山儀は、当時の日本(あるいは世界)のトップクラスの技術によって製造されているのであり、こちらも時代錯誤の産物として一笑に付すことはできない。とくに田中久重の須弥山儀については、現在時計技術の専門家の方々にも意見を伺いながら、より詳しい調査を継続中である。

また、円通門下の人々は多彩な仏暦を頒布し、天文学的な知識を一般に広げる活動も行った。梵暦社中の人々によって運営された各地の私塾や破邪学の一環として設けられた仏教各派の天文学講義の実態についても、かなり明らかになってきている。さらには、円通門下の人々は売薬(梵医法)や頒暦、占星術ないし天候予報などの幅広い活動を行っており、天文学の枠組みを超えた彼らの活動の実態は、近世・近代における地域社会と仏教の関係を考えるうえでも極めて興味深い。

梵暦道、宿曜道、梵医道に大別される各地の梵暦社中の活動については、現時点での調査結果を昨年論文にまとめたが、全国各地に広がる彼らの活動の足跡を網羅するには、まだしばらく時間がかかりそうである。ただ、未調査の寺院を訪れるたびに、これまで知らなかった史跡や天体観測用具、未確認の史料などが発見される状態であり、全国各地を訪れて梵暦運動の痕跡をたどる調査は、どうやら筆者のライフワークになりそうである。

また、かつて西村玲氏に指摘していただいた、円通と安楽律僧との関係や増上寺の塔頭を与えられていた円通の晩年についても、かなり多くの事実が分かってきた。確実な史料はないが、工藤康海は早くから円通と慈雲の師弟関係に言及しているし、円通は当時の著名な戒律僧の一人である豪潮から受戒している。晩年には『仏説孝子経註』といった著作や宗密の「原人論」の注釈書などを刊行し、これらはかなり広く読まれていた痕跡があるなど、少なくとも戒律復興運動と円通の関係は無視することはできないだろう。

「梵暦」という発想自体が、近代仏教の通仏教的な言説のルーツともいうべき戒律復興運動や慈雲の梵字研究と直接つながっているのであれば、一時はかなりの範囲に広がった梵暦運動は、明治以後の近代仏教思想とも直接・間接に関わっているはずである。

今後は、このユニークな思想運動のさらなる実態解明を進めるとともに、近代的な自然観の我々の精神生活への影響について、他界観を含むより広い宗教思想と関連づけながら考察していきたい。

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